掌編小説 猫の咲く木

すっかり春めいて空気がなまめかしい。川沿いの桜が五分咲きである。すずめの声も嬉しげである。
 古くからある高台の洋館に植わっている猫の木が、今年も蕾をつけた。かなりの老木なので毎年心配しているが、なんとか花を咲かせそうである。
 かぼちゃによく似た蕾が、風に揺れている。夕顔のように、夕暮れ時になると咲く。毎年そうだった。
 日が落ちるのが遅くなった。部活を終えて帰宅する中学生たちが自転車で洋館の横の道を通り抜けていく。彼らから柑橘系のにおいがした。若い汗のにおいだろう。
 すると、猫の木の蕾が、ぶるるんと大きく左右に揺れた。風のせいではない。