清張推理小説論(3)

清張の初期作品、『或る「小倉日記」伝』『西郷札』はともに歴史小説に属する。
 これらの初期作品=歴史小説に、「殺人犯人をも追跡しうる自在な力」が備わっていたことは(1)で見たとおりである。
 
清張は、歴史の観方、描き方について次のように書いている。
 ――史家は、信用にたる資料、いわゆる彼らのいう「一等資料」を収集し、それを秩序立て、総合判断して「歴史」を組み立てる。だが、当然少ない資料では客観的な復元は困難である。残された資料よりも失われた部分が多いからだ。この脱落した部分を、残っている資料と資料を基にして推理してゆくのが史家の「史眼」であろう(「