啓蟄(けいちつ)に押し入れのふすまを全開にした。
奥の隅っこから えんじ色 の寝袋が出てきた。
9年ぶりの再会。
かつて登山合宿でこれの世話になり そののちは
母も使った。
「タオルを首に巻いて潜り込むのがコツなんよ」
母に何度も教えたが寝袋を敷ぶとん代わりにして
使うばかりだった。
個室に入院していた父は、付き添いの母をいつも
目で追っていた。
夜は父のそばで眠り 昼間は私と入れ代わりに家へ
戻って家事を済ませる母だった。
「寝袋に潜って寝ないの?」
と聞くと
「潜り込んで寝ると父さんが探すから…」
とつぶやいた。
病状が落ち着いた
- 拍手
- コメント
- 13