『邂逅(かいこう)』①
安房の守昌幸は 本丸前の庭で弓を引いていた。
城は既に三万八千の秀忠勢に包囲されていたのであるが
矢はことごとく的の中心を得ていた。
本丸の前のところどころは もう錦秋も豊かで、遠くの
稜線も明浄に装われている頃であった。
矢は目に見えぬ軌跡で昌幸の魂が宿ったかの如く澄み
切った陽ざしを切り裂いていた。
十間のかなたの巻き藁の標的には既に十本余の矢が
中点に射たっている。
立て続けに10本を射た昌幸は、次の1本を手に取り
ざまに丹田へと気を移し ふと思うものがあった。
「この一本だけは的を外れる」
そんな気がしたの
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