趣味でつながる、仲間ができる、大人世代のSNS、趣味人倶楽部(しゅみーとくらぶ)

よくあるご質問

ボッサクバーナ、サンジェルマン・デ・プレでサルトルを気取る (最後にちょっぴり聖子が)

ヨーロッパへの初めての旅。といっても、実は金なし、暇なしの冴えないオヤジがやっとの思いでとった飛行機泊を除けば実質5泊6日の小旅行。だから24年前、“パリに一緒に行こうや!”の殺し文句で口説いたヨメ(=日本人でなく、フランス語教育を受けた事もあり、旧宗主国であるフランスへの憧れが強いベトナム人)との約束をやっとこさ実現させたパリ滞在はわずか2泊3日。限られた時間の中で、ベルサイユ、ルーブル、シャンゼリゼといったお決まりのコースを無視して向かった先はサンジェルマン・デ・プレ。というわけで先ずはバックミュージックを。→http://www.youtube.com/watch?v=M28GwjtXWCI&list=PLIeRRviu1HMlIysBvb-C00oh6MdwgyJGL

実存主義のミューズと呼ばれたジュリエット・グレコが歌うのはこんな歌だ。

サンジェルマン・デ・プレでは
あとは何もない。
明日も未来も
午後もなく
あるのは今日だけ。
サンジェルマン・デ・プレで
わたしと再会しても
もはやあなたじゃないし
もはや私でもない
昔のものは何もないの

「なんという変わり方!」とあなたは言う。
通りはあなたには見知らぬ通りのよう
クリーム・コーヒーも同じ、
あなたが好んでいた味じゃない
あなたはもう別人で、
私ももう別人
私たちはよそ者なのね、
サンジェルマン・デ・プレでは

うーん、シャンソンは実は苦手なのだが、こんなまさに実存主義哲学そのものの内容を、こんな風に優しく歌えるグレコってやはり素敵だ。そしてこの歌のバックに流れるのがサンジェルマン・デ・プレの1950年代と思われる街並み。教会、教会の前のカフェ、そこで行き交う洒落たパリジェンヌ達を横目で眺めながらゆっくりとコーヒーをすする人たちの姿は、この歌とは逆に、今でも一見、ほとんど変わりがないように見える。だが、実際にここで時間をつぶしている多くの人はボッサクバーナのような観光客。ここを根城にして、熱く哲学や芸術、政治を語りあったサルトルやボーヴォワールたちは、既に行き過ぎ、戻らなくなって久しい。教会前には“哲学者であり文学者のサルトルとボーヴォワールの場所”という小さな看板が。あの世のサルトルの苦笑いが目に浮かぶ。

サルトルゆかりのカフェCafe de Floreでクロワッサンとコーヒーをゆっくりと味わった後に、向かったのはこの場所からそう遠くないモンパルナス墓地。ここにはサルトルとボーヴォワールが一緒に眠っている。訳も分からず連れてこられて、種明かしをされた妻はひたすら唖然、“あなた、四半世紀かけてやっと約束を実現させて、東京から13時間以上かけてやってきた挙句に来たのが墓場?それもこんなにもしょぼいお墓を見るために?”そう、でもこの質素さが彼の美点なのだよ。墓には誰が置いたか、生前のサルトルの写真と、中国語・日本語・スペイン語や英語での様々な寄せ書きが。無神論者であり、死体の偶像崇拝などは最も嫌ったであろうサルトルの墓に手を合わせるとは実に奇妙にも思えたが、といってどうしてよいかも思い浮かばない。ここは純粋なサルトルへの敬愛の表現として受け取ってもらうこととしよう。

墓地を出てモンパルナス駅でタクシーを拾うとリュクサンブール公園に近い、パリ大学の裏手にある目立たないユルム通りが次の目的地。ここにあるのがフランスの高等師範学校、ここがサルトル・ボーヴォワールを始め、メルローポンティ、アルチュセール、フーコーにデリダといった戦後フランスのキラ星の如き知性たちが、そしてわれら(じゃなくて、私のだな)のチャン・デュック・ターオが若き日に学び、生き、輝いた場所なのだ。しかし、その華々しい成果に比して、ソルボンヌのど派手さとはまるで逆な、なんと対照的な地味な学校の佇まい。ここでもう一曲、若きサルトルの哲学小説であり彼の最高傑作、“嘔吐”の中で重要な役割を持つ古いジャズ曲、エセル・ウォーターズのSome of these daysを→http://www.youtube.com/watch?v=SK7DtRAWJGk
この小説が書かれた1931年、この曲も、今では想像できないくらい衝撃的な最先端の音だったのだと思う。実は意外にミーハーなところのあるサルトルは若い時はこんな音楽をかけて、才能に溢れた貴族出身の美少女、カストールを口説いていたのだろう。かつての尖った音も、今や失われたものを霧の彼方から嘆くラメントのようだ。

夏休みで学生達の姿もなく、寂れた小通りを嬉々と写真を撮りまくるボッサクバーナに妻は呆れるを通り越してもはや諦め顔。こうしてボッサクバーナのパリの半日は終わったのだった。で、残りの1日半はどうしたかって?それはヨメさんへの罪滅ぼし(?)のためのショッピングのお付き合いに決まっているでしょう。妻はCrazy shopperと化したが、文句は言えません。→http://www.youtube.com/watch?v=D5XJI-y2gEY

コメント

コメントはありません。