歌姫

郷愁の都市キエフで生れた、素晴らしいコロラトゥーラ・ソプラノ歌手、ベラ・ルデンコは一九七二年、グリンカのオペラ「ルスランとリュドミラ」でボルショイ劇場でのデヴューを飾った。キエフ・オペラに所属し、ウクライナの「ナイチンゲール」と呼ばれていたベラは周囲の懸念をよそに、たちまち成功をおさめてしまった。並み居るソプラノ歌手の殆どが一〇〇キロ級の巨体の持ち主だったから、スリムな美しいスタイルの「ベラ」が選ばれたのは当然と言えば当然であった。

 ベラ・ルデンコと初めて出逢ったのは一九六〇年代の初頭で、彼女は三〇才前後だった。スリムなスタイルで、日本人とは比較にな