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よくあるご質問

〜PAUSE〜 ?九月の特選ミステリー?(其の1)

◆ ローランド・ビネ 『HHhH プラハ、1942』 (高橋啓訳)
                 東京創元社/2600円+税

 戦争を知らない作家が書く、あの暗殺事件(類人猿作戦)。

 拷問、処刑、大量殺人。ナチは殺人に取り憑かれていた。その狂気の中心にいた
一人がチェコを支配した高官ハイドリヒ。「第三帝国でもっとも危険な男」「プラハの死
刑執行人」「虐殺者」「金髪の野獣」と恐れられていた。
 一九四二年五月、レジスタンスの若者二人がプラハでこの虐殺者を襲撃した。
第三帝国を揺るがせた暗殺事件で、フリッツ・ラング監督の「死刑執行人もまた死す」
(1943年)や、ルイス・ギルバート監督の「暁の7人」(1975年)など映画にもなってい
る。
 一九七二年生まれ、戦争を知らない世代のフランスの作家が、この暗殺事件を真っ
向から描く。まず第一級のサスペンス小説の面白さがある。
 ハイドリヒ、レジスタンスの二人の若者、さらに彼らを取り巻く人々。そして当時の政
治状況が克明に書きこまれてゆく。

 奇妙な題名はドイツ語で「ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる」の意。
ユダヤ人を虐殺するハイドリヒは他方でヴァイオリンとピアノの名手。三人の子供を愛
する父でもある。一方、二人の若者は死を覚悟した勇者。それでいて恋をする若者で
もあり、遺書に恋人の名を記す。

 ナチの高官が殺された。当然、報復が始まる。暗殺者をかくまったとされる小さな村
は焼き尽くされ、村人は子供まで虐殺される。暗殺者は教会に逃げこんだところを発
見され、水責めの果てに死んでゆく。

 手法が新鮮。通常のサスペンス小説やノンフィクションとは違って、随所に、いまこの
小説を書いている作家が「僕」として登場する。「僕」は悩む。資料の裏付けはあるとは
いえ、戦争を知らない「僕」が、レジスタンスの若者の立場になってフィクションを書いて
いいのか。

 事件そのものの合い間に「僕」の「書く苦しみ」が吐露される。苦しみながら書かれた
最後の若者たちの死は圧倒的な迫力。

※ ハイドリヒ Reinhard Heydrich(1904〜42) ドイツの政治家。1936年に治安警察
長官に任命され、その後、ドイツや占領地域でのナチスによるユダヤ人政策にかかわ
る。41年にボヘミア・モラヴィア保護領総督になったが、42年にチェコ人の特殊部隊に
よって暗殺された。

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