網走刑務所悲話

外は真っ白い綿雪が糸を引く様に、道北の北見の夜の闇にゆっくり落ちている。藤堂啓蔵は熱燗の入った白い徳利を右手の指で軽く摘み、一対のお猪口にゆっくり注いで飲み干した後で話を続けた。「網走刑務所であんな事が有るとはなあ、、、」戦後間も無い頃のある夜、藤堂は宿直勤務に就いていた。深夜三時の刑務所の内周見回中に、独居房の奥でピタリと足を止めた。 誰も入って居ない房の中で、声が聞こえたからだった。「誰かっー!」藤堂は規則道理に大きな声で誰何し、房の照明のスイッチを入れて小さな窓を開けた。もちろん誰も居る筈が無い。「ん、、、勘違いか?」藤堂はその房を後にした。そのと