〝ファスベンダーの自叙伝〟

 今年80歳を迎えた往年の名メゾ・ソプラノ、ブリギッテ・ファスベンダーが自叙伝を出版した。
 彼女はこの年齢になっても健在で、メディアにも頻繁に登場する。1994年に歌手を引退してからは、20年以上も演出家として活躍していた。インスブルック州立劇場などでインテンダントも務めたが、演出は手すさびというわけではなく、バーデン=バーデン祝祭劇場の『ばらの騎士』(ラトル指揮:ベルリン・フィル)等も手掛けている。

 当回想録でも、3分の1は演出家としての足跡を記したもの。残りの3分の2は、幼年時代と家族の思い出(とりわけ父ヴィリ・ドムグラーフ=ファスベンダーにつ