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よくあるご質問

今を生きるに必要な歴史とは

堀米庸三著『ヨーロッパ歴史紀行』筑摩叢書。
 1913年生まれの58歳になる堀米先生は、「ヨーロッパ人の空間意識をさぐる」というテーマを主目的に、今から39年前の1971の夏、2ヶ月間17ヶ国を巡る旅に出られた。
 はしがきに、「5年ぶりのヨーロッパ行きというのに、ひどく重苦しい気持ちだった。数日前にひいた風邪がなおらず、熱もあった」とはあるものの、すでに肺の疾患を抱えていたことに先生ご自身も、そして「何で周囲のわたしどもも気づいてやらなかったのか悔いは残る」、と門下の堀越孝一先生が巻末に追悼されている。享年62歳。
 歴史の定義を、「現在に生きている過去」と規定する。歴史は私たちの単なる記憶ではなく、常に将来を展望しつつある現在に生きていることの確認される過去であるから、と。
 歴史経験の確認は史料・文献によるが、その事象の生起した場所、遺物を通して行う必要性から、歴史は分かちがたく旅と結びついている。歴史家ヘロドトスは、ギリシャ本土や小アジア沿岸、北は黒海、南はエジプト、西はシチリア、東は遠くペルシャ帝国の内部まで、さらに司馬遷も『史記』を書くために中国全土の隅々まで旅したという。
 旅の経験の記憶の断層は、「実にとりとめのない事である場合が多いが、ある街角の店が煙草屋であったかどうか、記憶にある道端の木がアカシアであったかポプラであったか、その下のベンチや石がどんな色だったか、そのときふと聴いた歌や物音は、といったことさえ、経験の確認にとって絶対欠くことのできない場合がある。歴史の実証的研究にも、基本的には同じ事情が存在するのである」。
 旅の経験の重要さもそこにあると建前の小理屈をつけて、デパートの歳暮の手続きに行く前に、JTBに寄って5月までのツアーのパンフレットをもらってきた。一度はスペインにと考え妻は聖家族教会に拘っているようで、私はトレドにとそれぞれ思惑がある。

 高階秀爾著『ルネッサンスの光と闇』、「芸術と精神風土」と副題のついた中公文庫。
 ルネッサンスのイメージは、人間性の解放という明るい光に満ちたボッティチェルリの『春』や『ヴィーナスの誕生』を思い浮かべるが、一方で世界の終わりに対する恐れ、死の執念、混乱と破壊への衝動など別の側面をも著者は描き出している。
 第一部サヴォナローラでは、修道僧サヴォナローラが裸体を表現した絵画や彫刻、書物、竪琴、歌の本などを、それがどれほど優れた巨匠のものであろうと広場に持ち出し焼却した事件。ヨーロッパ随一の芸術愛好の街フィレンツェで吹き荒れた嵐が芸術家・知識人へもたらした癒しがたい心の傷として記憶の底に焼付けられたことから書き出される。
 第二部のメランコリアでは、人間の体内を流れる四種の液体によって人間の気質が定まるという四性論を多くの挿図を示して論じ、第三部、愛と美では三美神の貞節・愛・美とキューピットなど、いかに多くの画家によってこのテーマが描かれているかを知り、第四部のヴィーナスでは、その誕生と聖愛と俗愛、女神と娼婦などを掘り下げている。
 以下、神々の祝祭として、純潔と愛欲の争い、婚姻記念画、バッカナーレなど、172の図版を掲げ、ルネッサンスの精神的風土と芸術の絡み合いを400頁に亘って解説している。

 上記の二冊は、20年以上前に求めて書棚で待っていてくれたもので、年金生活者になって過去の財産をいま楽しんで生かしているという感じであるが(読むのは早ければ早いほどいいのに決まっているが)、先日、本屋へ行って新刊書を少々仕入れてきた。
 その一冊、山崎豊子著『運命の人』(一)文春文庫を読んだ。澤地久枝著『密約』岩波現代文庫や、当事者である西山太吉著『沖縄密約』岩波新書も読んでいたが、この本が文庫になるのを待っていた。
 同著者の日本航空を扱った『沈まぬ太陽』など、近現代史を取り上げた小説化された作品に、個人が強大な国家権力と組織の中で木の葉のように翻弄される危うさと、しかし、敢然とそれに立ち向かう「正義」というものに共感を覚えるからでもあろう。

カテゴリ:ニュース・その他

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