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よくあるご質問

素浪人の『万葉集漫談』(155話)…  山のあなたの空遠く。

? 山のあなたの空遠く
  幸ひ住むと人のいふ。
  ああ、われひとと尋(と)めゆきて
  涙さしぐみ、かへりきぬ。
  山のあなたになほ遠く
  幸ひ住むとひとのいふ。
    カアル・ブッセ(ドイツの詩人)  上田敏訳

? 幾山河越えさり行かば寂しさの
        はてなむ国ぞ今日も旅ゆく
                    若山牧水
?は?に触発されて生れた名歌といいいます。何れもかっては人口に膾炙し、多くの人に親しまれ、現代でも愛好する人がい多くいます。すぐれた詩や歌の織りなす芸術は、時を越え、国を超え、人種を超えて人々の心に響いて尽きないということでしょうか。

さて、『万葉集』には…?

663年に百済救援のために1000艘2万7千の兵を繰り出しながら天智天皇は、新羅、唐の連合軍に白村江(はくすきのえ)の戦いで完敗し、壊滅的な打撃を受けてしまいました。
天皇は、唐、新羅が勢いに乗って攻め込むかという懸念をもち、外敵から国を守り、敗戦による明日香豪族たちの向ける非難の矛先をかわすために、何十代も続いた大和の地を離れ、要害堅固な近江に朝廷を遷しました。667年3月のことです。

断ち難い明日香への愛着の思い、新都へ居住する不安の交錯するなかで追従する家臣や、天智天皇の妻や愛人たちが、国を鎮護し民の心を癒してくれた、鎮守の神への深い祈りを捧げた次の歌を紹介してましょう。

(155) 味(うま)酒 三輪山 青丹よし 奈良の山の 山の際(ま)に い隠るまで 道の隈(くま)い積るまでに つばらにも
見つつゆかむを しばしばも 見放(さ)けむ山を 情(こころ)なく 雲の 隠さふべしや
     反歌
(155’) 三輪山をしかも隠すか。雲だにも情あらなも。
                  隠さふべしや
      巻一・17・18 額田王(ぬかたのおおきみ)

大意・ ああ、神様のお住まいになる三輪の山。奈良山を越え、連なる山峯のかなた空遠くに見えなくなるまで、幾重にも曲がる道角ごとに振り返っても見えなくなるまで、いつまでも貴方を遙拝し、新都へ旅する身にご加護がありますようにと、お祈りするのです。雲よ、邪魔立ては無用ですよ。あなたも共々に祈ってくださいね。 (長歌、短歌を併せての、意訳としてみました)

解説・三輪山は奈良県桜井市にある円錐形の美しい山で、山全体が神様として崇められ、山を御神体とし、西山麓に大神神社があります。
この時代、山の峠や山道の角などには恐ろしい神様もいて、祈り、捧げものをし、お祓いをして、通過させて頂くというように呪術、宗教の原初的形態であるアニミズムが、人々の心ふかく宿っていました。

さて、先に掲げた近代の詩歌と比較して、如何でしょう?

科学的知識や思考が普及した近代人の詩歌とは異界、異質のものとして把握するか、思いを深く過去にいたして沈思し、立ち止まって、人の心を呼び起こしてみるか…。

なお、『万葉集』には形態的にみて、57、577の短歌と、57,57、57、…577の長歌、577、577の 旋頭歌などが存在します。この長歌はまだ形が固まる前の歌というべく、57・57…577の形は整えていません。
文学は、文字のない時代の口承文学から記述文学へと変遷しますが、まだ記紀文時代の長歌形態の影響を色濃く残した作品となっています。万葉第1期の作品です。

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