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よくあるご質問

『知的余生の方法』

渡部昇一著『知的余生の方法』新潮新書、読了。
 昨年の11月末に店頭に並んでいたが、今回求めたのはもう6刷になっていた。読んだ渡部先生の最初の本は、講談社現代新書の『知的生活の方法』で、76年6月であった。
 その後、講談社学術文庫の『人間らしさの構造』、『教養の伝統について』、講談社現代新書の『英語の語源』や『続知的生活の方法』、さらに講談社刊P.G.ハマトンの『知的生活』菊判の翻訳本を読んできた。先生の才能能力的には凄いなと認め感心しても、ドイツ文学者の西尾幹二先生と同様、思想信条的には今ひとつしっくりしない。それはそれとして著作を読んで得るものがあれば、それをいただければいいのだと割り切ることにしている。
 先生も傘寿となられたが、34年前の『知的生活の方法』と論調は少しも変わっていない。
 江戸後期の朱子学者・佐藤一斎(私もこの人好き)の
  少にして学べば、則ち壮にして為すなり
  壮にして学べば、則ち老いて衰えず
  老いて学べば、則ち死して朽ちず
 死して朽ちずとは、死後もその評価は遺るということであろうが、この中の句「壮にして学べば、則ち老いて衰えず」というのが『知的余生の方法』ということなのだろう。
 章立ては、年齢を重ねて学ぶこと、健康と知恵、余生を過ごす場所、時間と財産、読書法と英語力、恋愛と人間関係、余生を極める、と並んでいる。
 学ぶことについては、論語の「これを知る者はこれを好む者にしかず、これを好む者はこれを楽しむ者にしかず」(雍也第六)を持ち出し、「内発的興味」を深化させ永続できるのは楽しむまでに至ることであり、家族付き合いをしていたヴァイオリニストの江藤俊哉さんの演奏スタイルをみて、「芸術も学問も、楽しむ境地に至らないと本物ではないのだ。本当に楽しむ境地の人の作品や演奏や行動からは、人の魂を揺り動かす何ものかが出ているのではないかと思う」と。
 財産の章では、英国の諺に“Money is a good servant, but a master”「金は良き召使、悪しき主人」とあるそうで、「お金や財産は賢明に使えば実に良いものだが、お金に使われてはひどいことになる」。財産や富は英語ではgoodの複数のgoodsと表現され、もともと財産というものは「良いもの」であり、「だから人々は働いて財産を蓄え、それを老後の糧にしようとした。ところが、この常識をあら捜しをして、無理矢理覆し、財産を悪いものであると言い出したのが、フランスのルソーだった」と書いている。
 彼は自分が孤児のように育ったせいか、すべてに反抗的で、家族も、教会も、国家もよくない、財産などとんでもないと。皆が良いとしている文明もよくないから「自然に帰れ」と主張。「家庭さえ否定したため、下女に産ませた数人の子どもは孤児院に入れてしまい、そして『エミール』という教育論を唱えているのだから、何をか言わんやだ。こんな人が大思想家などとして持てはやされたのは、花札でいえばフケみたいなものだったからではないか」と厳しい。
 しかし、ルソーはどの著作にも「自然に帰れ」とは表現していない。後の人がそういうことなのだろうと言っているだけのことで、どうも先生はフランスはお嫌いのようで、渡部先生のこういうところ、思想信条的には・・・ということなのだが。
 英文学者の外山滋比古先生の好きな俳句として、滝瓢水の「浜までは海女も蓑着る時雨かな」を挙げられている。
 「浜」は死期を指すとすれば、「どうせ海に入るのだから、時雨だろうが何だろうが濡れることなど気にしないで浜に向かえばいいのに、この海女は蓑を着るのだ。この蓑は、私にとっては読書に当たる」と、これには共感するが。
 恋愛の章で藤沢周平の『蝉しぐれ』についてふれている。
 文四郎(助左衛門)とお福は、隣同士に住む幼馴染。何事もなく成長すれば夫婦になっていたはずだが、運命は二人を引き裂く。お福は江戸屋敷に奉公に出、藩士の目に止まって側室となり子どもをもうける。文四郎も藩の権力争いに翻弄されながらも成長し、妻と子を持つ身。
 そんな二人が、ほんのつかの間、20年ぶりに再会する。
「二人とも、それぞれに人の親になったのですね」
「さようですな」
「文四郎さんの御子が私の子で、私の子が文四郎さんの御子であるような道はなかったのでしょうか」
いきなり、お福様がそう言った。だが顔はおだやかに微笑して、あり得たかも知れないその光景を夢みているように見えた。助左衛門も微笑した。そしてはっきりと言った。
「それが出来なかったことを、それがし、生涯の悔いとしております」
「ほんとうに?」
「・・・」
「うれしい。でも、きっとこういうふうに終わるのですね。この世に悔いを持たぬ人などないでしょうから。はかない世の中・・・」。
 いずれまとめて藤沢小説をじっくり読みたいと思っている。

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