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よくあるご質問

道ならぬ恋路に生きた、但馬皇女。…名歌200選(42)(43)(44) 素浪人の『万葉集漫談』(238話)

(238) 降る雪は あはにな降りそ 吉隠(ヨシバリ)の
          猪養(イカイ)の岡の 寒くあらまくに
             巻2・203 穂積皇子(ホズミノミコ)

大意・ 降る雪よどうぞ、そんなに多くは降ってくれるな。吉隠(ヨシバリ)の、猪養の岡に眠っている但馬皇女が寒いだろうから…。恋人の死を思いやる穂積皇子の、哀切尽きぬ歌、名歌です。
解説・ 今は亡き恋人但馬皇女の眠るお墓にしんしんと降り積もる雪
に、やり切れぬ男の想いが重なります。
物語の構成上また、歌の番号が順不同となりますが、古代最大の内乱とされる壬申の乱の総大将、高市皇子の妻となっていた但馬皇女(タジマノヒメミコ)は、天武天皇を父、氷上娘(鎌足の子)を母に持つ。
夫の高市皇子(タケチノミコ)は天武天皇の長男で、朝廷の重責を担い多忙を極めていた。しかも彼の心には初恋の十市皇女が住みついていて、妻の但馬を心から慈しむ愛が欠けているのが見え隠れする思いがあったのであろうか…。当時の結婚のほとんどは政略結婚で、恋から結ばれる関係ではなかったし、但馬皇女の女心が他の男へ傾き、揺らいだのも、一つの成り行きであったかもしれない。

(238’) 後(オク)れいて 恋ひつつあらずは 追ひ及(シ)かむ
           道の隈(クマ)みに 標(シメ)結(ユ)へ我が背
                  巻2・115 但馬皇女
大意・ 貴方が志賀の山寺に送られるというのに、一人取り残されて貴方に恋焦がれているよりは、ひと思いに追いすがってご一緒しますわ。道々の曲がり角に、目印になる標を結んでおいてくださいね。

これは、道ならぬ恋に燃える二人のわが皇子、皇女を放任もできず、天武天皇も、男と女の仲を引き裂くべく、穂積皇子を一時、滋賀県の山寺に遣るのでした,その折の但馬の男恋しの歌です。
寺は天智天皇が近江王朝をきづいた時代に建てられた祟福寺。

(223’’) 人言を 繁み言痛(コチタ)し おのが世に
           いまだ渡らぬ  朝川渡る
               巻2・116  但馬皇女

大意・ 人の噂にのぼって世間の目が煩くなってきたので、生れてこの方渡ったこともない川をこうしてまだ明けきらぬ暗い朝のうちにわたって、恋しい人のところへ通うことです。…という歌です。
解説・ 高貴な身分の、しかも女性が未明の川を渡ってまで、逢引を重ねたという。 当時は男が女性の住まいをを訪ねる、妻問いが普通のかたちの時代です。夫の高市皇子が身分も高く警固も行き届いたわが家へは到底、男を招じ入れるることなど出来なかったのでしょうね。

そして708年6月25日、この情熱の歌人、不倫の恋に臆することもなく挑み続けた不敵の皇女は亡くなったのでした。
穂積皇子の最初の歌には、この但馬皇女の死を悼む悲しみが切々として伝わり、あたかも生きている皇女に雪が降りかかるのを払いのけようと、祈るような心が読み取れます。

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