中野京子「怖い絵」

 今年の秋は、本書を基にした「怖い絵」展と「運慶」展が一大ブームになった。私は「怖い絵」展には当初興味がなかったが、ラジオで著者の中野京子さんがゲスト出演して、「怖い絵」展開催の趣旨をお聞きし、俄然興味を持って本書を購入した。実際に本書を読んでみて、怖いと感じる絵は「我が子を喰らうサトゥルヌス」ぐらいで、背筋が寒くなるような恐怖を感じる絵はなかった。しかし、間違いなくおもしろい。

 著者の絵画を見る視線は図像学的知識ともまた違う。もちろん、それは踏まえてのことだが、もっと作者の生い立ちやその時代背景に肉薄してストーリーを紡ぎ出している。私は「人麻呂の暗