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よくあるご質問

法隆寺🌸夢しだれ

旅先のベッドで目覚めたときの、一瞬の浮遊感。
ここはどこだろう..... ?
私は何をしているんだろう..... ?
そして一瞬のうちに、眠りの浅瀬に浮遊した魂が我が身に戻ってくる。いつものことだ。眠りが深かった証しでもある。

夜は食事を摂らない習慣なので、朝はいつも健康な空腹感を覚える。
旅の愉悦の一つは「食」にあると思うものの、残念ながら奈良で美味しいものは未だ思い付かない。
いずれにしても旅の間は野菜不足になりがちなので、朝食バイキングはサラダをたっぷり。それにコーヒーを2杯。

JR奈良駅から法隆寺駅までは、ほんの10分ほど。気持ちを徐々に高めて行く余裕すらないほどだ。
夢殿の前の、あの桜は咲いているだろうか。
今年の桜は例年よりも早いとの予報に、もしや咲いているかもしれない..... との期待が膨らんだが、その一方では、折からの寒さに落胆も否めないと思った。

逸る気持ちを押さえ、法隆寺駅からは物語の序章を味わう気分で、或いは芝居の緞帳がゆっくり上がる気分で、敢えて徒歩で向かうことにした。

思えば長いみちのりを歩き続けているようで.....
来し方しらず行方しらず

さだまさし作詞『夢しだれ』の、こんなフレーズを思い出せば、不意に我が来し方・行く末に想いを馳せることにもなる。
歌詞に因るまでもなく、人生はうたかたの夢の中を歩き続けているようなもの。どんな耀きも、歳月の中に色褪せてゆくさだめであることは、今さら言うまでもない。

夢殿の前にある枝垂れ桜を「夢しだれ」と命名したのは、文芸評論家の山本健吉さんだという。
その「夢しだれ」は、やはりまだ咲いていなかった..... 。

山本健吉さんは俳句評論も数々書いておられるが、私はこの旅に一冊の句集を持参している。伊丹三樹彦さんの第一句集【仏恋】が収められた『花神コレクション』である。いつか大和路をじっくり歩くことがあれば、ぜひこの句集を供にしたいと考えていたのだ。
その冒頭に「法隆寺」がある。

・こよなくも清雅に在すくだらぶつ
・誰がわざや天衣あかるむ花菜など
・あさはるのほとけも瓶もまろかなる
・みほとけに春昼の思慕ゆだねける
・みほとけのほとり春愁去りがたな

法隆寺は、途方もなく広い。すべて拝観して門を出ると既に昼時。
私は南大門前の食事処で昼食を摂ることにした。
ここで日記の続きをしたためながら、この先の予定を反芻する。
予定の中でまだ行っていないのは、【法輪寺】と【法起寺】だけ。

【法起寺】の三重の塔は、三重の塔としては日本最古の塔だと言う。高浜虚子『斑鳩物語』の中に描かれていている塔でもある。
そのときに虚子が泊まった宿屋【大黒屋】は、店のお女将さんによると「後継者がいなくて廃業したようだ」とのこと。
せめて場所だけでも確認して来ようと、お女将さんに礼を述べて、いささか長居してしまった店を後にした。


※後日記
宿屋【大黒屋】は、夢殿の裏手に廃墟として存在していたが、『斑鳩物語』の宿屋とは全く別物のようだった。
1989年刊の榊莫山の本には既に、「そんな大黒屋もつぶされてしまった」と書いてあるし、場所も違うようだった。

カテゴリ:旅行・お出かけ

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