連載:読書

「自粛生活②『山手線の電車に跳飛ばされて怪我をした、その後養生に、一人で但馬の城崎温泉へ出掛けた。」

冒頭の一文がすーっと、いや、ぱーっと心に広がる。ぞくぞくする。

偶々見ていたテレビで城崎温泉が出た。キノサキ温泉。

小説の名前は知っていて、気になるのに読まない本の代表『城の崎にて』。

「頭は未だ明瞭(はっきり)しない。物忘れが烈しくなった。然し気分は近年になく静まって、落ち着いたいい気持がしていた。」

「一人きりで誰も話し相手はない、読むか書くか、ぼんやりと部屋の前の椅子に腰かけて山だの往来だのを見ているか、それでなければ散歩で暮らしていた。」

「冷々とした夕方、淋しい秋の山峡を小さい清い流れについて行く時考える事は矢張り沈んだ事が多かった。