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よくあるご質問

竹取幻想43


 寺江の、藤原秀衡様のお宿での一夜の語らいは、文徳さまも交えてあの後も賑やかに続いたのです。その前夜にもまして楽しく嬉しいひと時でした。酔い心地のこころよさ、そんな中で皆様は決して乱れず上下分け隔てなく、ふた心ない歓談に興じていらっしゃいました。宮中のそれとのなんという違いでしょう。笑顔の下、疑心暗鬼を瞳の奥に隠し、卑下と尊大で興を装う宴とは・・・その中で知らずそれが世界のすべてと思い込んで過ごしていた長い年月でした。あ、弟の成清一人は、はしたなくも自分をさらけ出しておりましたがお許しください。弟も私と同じくそのような嬉しさにも酔っていたのでした。そのような経験を私も外に出て初めていただいたのでした。


 舟はしずかにゆるい波を立てながら進んでいきます。途中、江の光景を愉しみながら清盛公が渾身の力でお開きになった福原へと進んでいきます。その福原は新しい都にするのだという噂も昨夜聞いて驚いたばかりです。まさか、そんな大それたことをと半信半疑で聞いておりました。また、後白河法皇さまが来年福原行幸なさる準備が始まったとか、まあ、これは噂です。舟は休憩で長洲浜に寄り文徳さまにご用意いただいた昼食のお弁当を広げ皆さまと頂きました。やっぱり美味しい!船頭さんや文徳さんのかわいい子供たちも一緒ににぎやかに楽しく食べました。
 厳めしい兼綱さまや康忠さまはまるでご自分の子のように目を細めてお弁当の点心をあげたりしていました。成清と仲光さま清親さまは食後に松原や舟の間で鬼ごっこなどして遊んでやっていましたが、実は本人たちの方が楽しんでいたりします。漁師さんや海女さんらも笑っていますよ。まったく、どちらが子どもかわかりません。本当は私も一緒に・・・遊びたかったのですが。
 競さま、文徳さまは始め、眺めてにこにこなさっていましたが、そのうち松の根元でぐっすりと午睡のようです。昨日からほんとうにお疲れさま。私はこんな平和でのどかな光景にうっとりしておりました。寄せ来る波の音と松風に包まれながら、皆さまの御心遣いをありがたい事と心のなかで手を合わせていました。その後、船頭さん交代で六甲の山並みを眺めたりして福原の大和田泊に着きました。その大和田の泊りに着く手前に島が見えましたが、


「あれは経が島と呼ばれる人工島です。大和田泊への波を静める目的で作られています。始め工事が難航して、公卿たちが人柱を捧げろとうるさかったようですが、清盛公はそのような迷信を斥けて、埋め立て用の石にお経を書いて沈めたとか。さすが清盛公です。公卿たちは自分がすすんで人柱になるとは決して言いませんからね。人夫たちは清盛公にさらに信頼を厚くしたようです」


 と、康忠さまにお教えいただきました。神々ではなく、人間が島を作る、聞いたことがありません・・・それだけでも驚くべき発想です。また、たしかに、人柱なんて、迷信と言われればそれまで。お武家さまは本当に私たち宮中の者とは世界が違うのですね。宮中に暮らしてきた私は迷信の渦を渡ってきたにすぎません。しかもこれは人柱・・・残忍な迷信ですが、清盛公は見事に解決なさいました。

 大和田泊は広く大きく大小のたくさんの船が繋がれておりました。大きな船、あれが宋の船ですか。まるで大きなお屋敷のようです。泊りには日本人だけでなく宋の方々も大勢働いています。宋の言葉があちこち飛び交い、当たり前のことなのにそれだけでドキドキします。坂道の多い福原の町は活気にあふれていました。建物もみな新しく木の香りがあふれています。商人の町は大変面白く、宋のお国で瓦市と呼ばれる一番の賑わいを見せる町もあるとか、ああ、これが宋のお店なの、と好奇心を駆り立てられます。鮮やかな朱色をふんだんに使ったお店の装飾には彫り物の竜や鳳凰などが極彩色で飾られ、色とりどりの提灯や切り紙細工が目を奪います。行き交う人からフェンドー!と文徳さまに声がかかるたび文徳さまはにこにこと手を振っています。フェンドーさまとお呼びすれば宜しいのですかとお訊きしますと、どちらでも同じですとお笑いになります。兼綱さま始め皆さまも楽しそうにあちこちのお店を覗いておられます。
 一番お若い清親さまがなにやら真剣なご様子で小物店の棚を見つめております。すると後ろから仲光さまが「土産か」と声をかけます。驚いて振り向いた清親さまのお顔は真っ赤になっていました。

「なんだ彼女に買ってやるのか、そうかいいねえ、羨ましいことよモテる男は」とかからかいます。

「こら、仲光、妬むでない、みっともない」
競さまは間に入って

「ん?これか?ほう、可愛げな紅入れじゃのう!これは可愛い彼女に似合いじゃなあ」

あらら・・・競さままで・・・清親さまはかわいそうにからかわれるまま・・・でもそんな清親さまもとてもかわいいのです。皆さまのお気持ちが伝わりますが、

「ち、違う!母じゃに考えておるんじゃ!」
向きになってますます赤くなっていました。

「そうだよな。じゃあ俺も母じゃに何か土産を買うかな、あはは」

 仲光さま、その辺で止めないと剣呑になりますよ、でもかわいい。




写真 吉野

カテゴリ:アート・文化

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