閉塞した世の中を生きる

 青山文平の「江戸染まぬ」を読了した。著者は時代小説作家で、53歳でデビューし、史上2番目の67歳で2016年第154回直木賞を受賞している。本書は、江戸に生きる様々な人々の人生を描いた、時代小説の短編集である。
 「つぎつぎ小袖」:貧乏旗本の奥方の「わたし」は、周囲からは大雑把であると言われていたが、七歳の長女のことだけは細かく心を砕いていた。江戸で疱瘡が流行り、娘を心配したわたしは、親戚の七家をつぎつぎに巡り、疱瘡除けの「つぎつぎ小袖」を仕立てようとするが、最後の一軒に足が向けられない。その家は、親戚の中で一番気安い家なのだが、最近その家からの借金の