怒りも悲しみも孤独感も、あるがままに受け止める。心が折れそうなときは、自分で自分をケアして守る。今、そんなストレス対処法が注目を集めています。「コーピング」はいわば"自分助け"の技術。実践すれば、心が軽くなり、もっと、ずっとラクに生きられます。ひとりの時間をより充実させるためにもはじめてみませんか?

コーピングとは?

コーピングのスキルを持つとストレス耐性が一気にアップ

コーピングとは、アメリカの心理学者が考案した「ストレスへの意図的な対処法」。ストレスフルな現代の生活の処方として、アメリカでは以前から、多くの企業や学校がストレスマネジメントにその理論を取り入れていて、効果が実証されています。「コーピングには、ストレス要因を解決するもの、気晴らし、認知的コーピングなど、いくつかの種類があります。とはいえ、自分助けになることなら、どんなこともコーピングです」と話すのは、臨床心理士の伊藤絵美さん。多少のストレス対策は、普段、誰もがやっていることですが、コーピングは、〝自分助け〞という明確な意図を持って行う点が特徴的。「手順は、自分のストレスをモニターし、ストレスに見合った自分なりの対策を行います。これを意識的、徹底的に繰り返すことが大切。そうすることで、確実にストレス耐性は上がります」

今世界中が注目。
誰でもできる心にやさしいストレス対処法

ストレスから抜け出せないその原因は自動思考にあった

生きている限り、ストレスはつきまとうもの。では、そもそもストレスとは?つらいと感じてしまう原因は、どこにあるのでしょう。心理学では、ストレスをストレッサー(環境)とストレス反応にわけてとらえます。ストレス反応には認知(自動思考)、気分・感情、身体反応、行動があり、4つは互いに影響し合います。「例えば、仕事中、上司に叱られ『自分はなんてダメな人間なのだろう』という考え(自動思考)が浮かんだとします。思考と現実は必ずしも一致しないのに、本当にダメだととらえてしまう。ネガティブな自己評価をそのまま受け入れると、どんどんつらくなっていきます。悲しい気持ちになり、胃が痛くなったりして、その人を避けるようになるかもしれません。そして、仕事のたびにイヤな気持ちがぶり返し……。これがグルグル回り続ける、ストレスの悪循環なのです」(伊藤さん)。まずは、誰にでもある〝自動思考〞という現象を知ることが大切。コーピングには自動思考を客観的に見るワークがあり、「練習すれば、次々と浮かんでくる自動思考からすっと抜け出せるようになりますよ」(伊藤さん)。次のページからは、いよいよコーピングの実践編。レッスン1から順番に取り組んでいきましょう。

TEACHER

臨床心理士 伊藤絵美さん

いとうえみ/洗足ストレスコーピング・サポートオフィス所長。専門は認知行動療法、ストレス心理学。コーピングを用いた心理カウンセリングを行っている。近著に『折れない心がメモ1枚でできる コーピングのやさしい教科書』(宝島社)。

グルグル回り続けるストレスの悪循環

ストレス環境にあるとき、4つのストレス反応は互いに反応し合い、グルグルと回り続けます。この中で 悪い思考が 生まれると、それがどんどん大きくなり状況を悪化させ、新たなストレスを生むという悪循環を繰り返します。

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コーピングは、自分のストレスを"知る"ことから始まります。
心の動きや体の反応、自分のとった行動などを書き出してみましょう。

書いてストレスを客観視する気づきは大切な第一歩

コーピングの目的は、ストレスごとに適した気晴らしや対処をしていくこと。その第一歩として、ストレスへの気づき(モニタリング)は欠かせない作業です。具体的には、モニタリングの対象となるストレス体験を選び、ストレッサー(環境)と4つのストレス反応を紙に書き出していきます。この書き出すという行為がポイント。「自分の中にあるものを外に出すことで、もやもやしていたものが客観的に理解できるようになります。どんな言葉に弱く、どんな反応をしがちかなど、自分のストレスの傾向も見えてきます。重要なのは、今起きていることにリアルタイムで気づき、観察できるようになること。ストレスの正体に気づくだけで、ストレスの悪循環から抜け出せることもよくあります。最初は面倒に感じるかもしれませんが、やるだけの意味があります」(伊藤さん)

あなたも今抱えているストレスを5つの項目に分けて、まずは書き出してみましょう。

さあ、いよいよコーピングに入ります。自分なりの気晴らしやストレス対処法を書き出し、試してみましょう。まずは100個を目標に!

たくさんあれば選べる数を増やすことから始めよう

コーピングは、多くあげることが大切です。例えばストレス解消法が、『買い物』や『お酒』だけしかないとなると、そればかりに依存してしまって大変なことに。できるだけ楽しく健康的で、負担の少ないコーピングをたくさん持っておきましょう」と伊藤さん。行動を伴うものばかりでなく、気持ちを切り替えたり、自分を励ましたりする認知的コーピングも取り入れて。楽しいことをイメージするだけでも、立派なストレス対策になります。

コーピングリストを作るときの基本ルール

できるだけ多くあげる。100個を目標に 楽しく、健康的で、負担の少ないコーピングを選ぶ
ローコスト&時間がかからないものを選ぶ 認知的コーピングと行動的コーピングの両方を取り入れること

例えばこんなこと

行動的コーピング
好きな口紅をつける 美容院にいく
掃除に没頭する 大きな声で歌う
歯を磨く 猫をなでる
認知的コーピング
「どうにかなるさ」と受け入れる 憧れの女優になった気持ちになる
「気にしない」と言い聞かせる 映画の世界に入り込む
好きなアイドルを想う 「大丈夫」と声に出してみる
ギュッと自分を抱きしめる 「うまくいく!」と暗示をかける

あなたがホッとできる事柄がコーピングです。100個目指して、あなたもリストアップしてみましょう。

ここでは、自分で自分をいたわり、安心させるロールプレイの技法を3つ紹介。
早速、コーピングリストに加えて、実践してみましょう。

不安や孤独感が消えていく3つの万能コーピング

レッスン2でコーピングリストを作りました。ストレスを感じたら、どんなストレスかを観察して、効果がありそうなコーピングを選んで実践していきましょう。リストは持ち歩いたり、目につく場所に貼るのもよいそう。「1つ試してまだストレスを感じていたら、別の対策に切り替えるなどします。どんなコーピングが役に立ったか、何度も繰り返し、効果を検証していくことも大切です」(伊藤さん)
ここで紹介するのは、ぜひ習得してほしい、伊藤さんおすすめのコーピング。どれも効果絶大です。
誰にも相談できずひとりで抱えこむと、ストレスの悪循環に落ち入りがちですが、いざとなったら頼れる人がいることに気づいたり、自分で自分を励ましたりすることができれば、心が安定します。もやもやしているとき、安心したいときにも試してみましょう。

つながりネットワークを可視化する

自分の周りにいる頼れる人・支えてくれている人を書き出します。その際、薄いつながりの人も加えます。例えば、行きつけの店のスタッフや挨拶をする近所の人でもOK。その人を思うだけで元気になるなら、亡くなった家族やペット、歴史上の人物、漫画のキャラクターなどもつながりネットワークに加えます。

自分をねぎらう時間をつくる

やさしい言葉をかけられると、心が落ち着き、不安が消えていきます。「頑張ったね」「少しのんびりしようよ」など、ねぎらう言葉を自分に投げかけてあげましょう。自分の手で頭をなでたりするのも効果的。バカボンのパパなど心が温かくなるような人を思い浮かべ、「これでいいのだ」とセリフを思い浮べるのも効果あり。

自分のいいところをあげてみる

いつも自信がなくて、自分を否定してしまう人は、" いいところ探し"を取り入れましょう。自分には悪いところしかないと思う人も、" いいところ"に変換して紙に書き出します(八方美人→人当たりがいい、頑固→意志が強いなど)。過去にほめられた言葉を思い出したり、誰かに聞いてみたりするのも、効果的です。

コーピングもすべて、やることが必須ではありません。「べき」「ねば」ぐせをやめましょう。

「つい人は、ものごとをいい・悪いで評価し、『べき』、『ねば』という考えにとらわれがち。『仕事は完璧を目指すべき』とか『人の前では機嫌よくしないと……』と常に考えていたら、とても苦しくなってしまいます。コーピングも、すべてをきっちりやる必要はありません。『今、ストレスを感じているなあ』と気づくだけでも、コーピングになっています。『べき』、『ねば』を少しゆるめてみましょう。ずっと楽になるはずです」(伊藤さん)

動じない心を育むマインドフルネス。
怒り、悲しみなど、強い感情が収まらないときに取り入れると、最強のコーピングになります。

今この瞬間を味わい手放す 習得には実践あるのみ

マインドフルネスは、今起きている感覚に気づき、あるがままに受け止め、手放すためのプログラム。ストレスへの対処のほか、最近では、うつ病などの治療にも活用されています。
マインドフルネスの考え方では、すべての体験に対して、判断や評価をくだすことはしません。イライラしても悲しくても、ただ受け止めるだけです。
「自分自身を、じっと見ているイメージに近いです。繰り返し実践していくうちに、どんな感情が浮かんでも、客観的に受け止め『ふーん、そうなんだ』と置いておけるようになります。それはつまり、楽に生きられるようになるということ。日々起こる出来事や感情に振り回されることがなくなり、心を常にニュートラルな状態に置くことができるようになりますよ」(伊藤さん)
初めての人は、瞑想からトライ。頭で理解するより、実践あるのみです。

マインドフルネスとは?

  1. 今この瞬間を味わう
  2. あるがままに受け止める
  3. 呼吸をあるがままに感じる
  4. いいも悪いも判断しない、評価しない
  5. 考えが浮かんだら受け止めて手放す

すぐに取り入れられるマインドフルネス

マインドフルネスを習得すると、ストレスを無理なく手放していけるようになります。
いろいろなワークを試してみましょう。

マインドフルネス瞑想(または呼吸のワーク)

呼吸をしながら、鼻腔を通る空気の感触や胸・お腹の動き、体温、頭に浮かぶ気分などに意識を向けて観察します。呼吸をコントロールしたりせず、ただ感じて味わいます。周囲の音などにも注意を広げ、今この瞬間を味わいましょう。『おとなスタイル』2017年春号のP58で紹介の坐禅にも同じような効果があります。

ロボット掃除機のワーク

自動思考やネガティブな感情が大量にわいてきて、押しつぶされそうなときには、ゴミとロボット掃除機をイメージ。キレイな床に、わいてきた自動思考や感情をぶちまけましょう。一度それを観察し、掃除機の電源をON。あとは、すべてロボット掃除機が吸い込んでくれます。

葉っぱのワーク

目の前に大きな川が流れていて、流れもゆったり。そこに葉っぱが一定の間隔で流れてきているイメージを持ちます。あなたは、頭に浮かぶ言葉やイメージをひとつずつ葉っぱにのせていくだけ。自動思考のすべてが、川の流れに乗って消えていく、このイメージを持ち続けます。

触るワーク

目の前にあるものを触り、しっかりと感じるワークです。机や壁、自分の体にも触ってみましょう。堅い、冷たい、心臓の鼓動や骨のゴツゴツした感触などを確かめます。そこで自分の体型などが気になっても、その思考はひとまず置いておき、ありのままに受け止めるにとどめます。

編集者から、ここ伝えたい!

編集を担当したM美です。今回の取材で、私も心がちょっと軽くなりました! 日本人て、ストレスを生んだ出来事に対して、何でも自分のせいにしがちですよね。「私がダメだったらこうなっちゃったんだ」「自分で解決しなきゃ」と努力して、結果、負のループに陥っちゃう。私もしょっちゅうです。
でも、特に人間関係の問題なんて、相手のあることなのだから、自分だけの責任であるはずがないんですよね。無駄に自分を責めてエネルギーを使ってもいいことなんてない。ストレスともっと違う向き合い方をしてみよう、という考え方が、今回ご紹介したコーピングです。
ストレスに対応はするけれど「勝たなくていい、受け流そう」と向き合うことが、心の強さを高めてくれます。アップルなど欧米の一流企業がコーチングを取り入れているのも、強いメンタルこそがいい仕事に繋がるから。このテクニックを身につければ、強い心でもっと楽に生きるコツを手に入れることができそうです。