花菖蒲 余滴八話(オフ会・堀切菖蒲園)

時雨西行

「西にのみ心ぞかかるあやめ草
  この世はかりの宿と思へば」(西行)

西行はあやめ、菖蒲の歌を十数首詠んでいる。
但しこの十数種の歌の中で読み込んでいる「しょうぶ」は花菖蒲ではなくサトイモ科の菖蒲だろうと思う。「あやめ葺く軒」とか「五月雨の軒の雫に玉かけて」と詠んでいるのだから・・・
西行。謎多き人物だという。
井上靖は「専門家でない一小説家でない私の場合、西行を小説の主人公にする勇気はない。出家する動機がかけないからだ」(「西行」)と言い、山折哲雄は「無我・無心の人のようにもみえ、不敵な野心家のような素顔もみせる。禁欲的な振舞いやたたずまいのなかにいるときもあれば、自在・放胆な態度にもでる」(「身軽」の哲学)
ただ私には西行は死に対する憧憬があったように思える。
時雨の中を歩く姿が「うしろすがたのしぐれてゆくか」と詠んだ種田山頭火と重なって見える。時雨は菖蒲咲く季節ではないが、花の命名者は白菖蒲に僅かに紫が滲む姿に時雨の中を歩く西行を見たのかもしれない。私はその後を歩く山頭火の姿も重ねて。

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