安行桜5態(密蔵院)

仰ぐ

縁(えにし)なき女(ひと)にはあれど並び立ち桜仰ぎて後ともに微笑む(自作)

桜は仰いでみるのが良い。若い頃は真上に見るようにしていたが、年を経るごとに仰角が落ちてくる。何しろひっくり返ることのないよう用心深くなってきているからだ。
斜め上にある桜花を春というより逝く冬が残っているような澄んだ青さの空が一層引き立てている。ふと隣を見ると私同様、腰に手を当て見上げる女性がいる。思わず顔を見ると相手もまた私を。マスク越しではあるが思わずにっこり。「どちらから?」と訊くと「あっちだよ」と指を指す。見ると若いピンク色の胸当エプロンを着けた女性が走って来た「〇〇さん、ダメでしょ。皆さんと一緒にいないと。すみませんでしたね」
共に微笑んだ女性は後ろ髪を引かれるような素振りも見せずに去って行った。

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