「時代小説」の日記一覧

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武家再興の夢

 朝井まかての「秘密の花園」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説、歴史小説をテリトリーとしている。本書は、江戸随一の戯作者となりながらも、生家の滝沢家再興の夢を捨てきれなかった曲亭馬琴の一生を描いた評伝小説である。  物語は隠居した家の庭の花園を手入れしていた馬琴が、妊娠している息子の嫁の路に声を掛けながら、年上の妻の百の許に入り婿になった頃から過去までを回想する場面から始まる。その花園…

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全身麻酔下での難手術

 青山文平の「父がしたこと」を読了した。著者は時代小説作家であり、2011年、著者が53歳の時に「白樫の樹の下で」で第18回松本清張賞を受賞して再デビューし、史上二番目の67歳で2016年第154回直木賞を受賞している。本書は、譜代の小藩の藩主の疾病の手術を、蘭方の外科医に委ねたことにより起こった悲劇を描いた時代小説である。  物語の舞台は天保十三年(1842年)のとある譜代の小藩で、視点人物は…

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三条天皇の妃達

 澤田瞳子の「月ぞ流るる」を読了した。著者は直木賞作家で、歴史、時代小説をテリトリーとしている。大学時代に奈良仏教史、正倉院文書を専攻し、「孤鷹の天」で第17回中山義秀文学賞を受賞して作家デビューしいる。本書は、「栄花物語」の作者とされている赤染衛門を語り手とし、藤原道長と三条天皇の対立が描かれている。なお、本書で舞台回しとなるのは、比叡山の若い僧侶で数奇な生い立ちの頼賢である。  本書の主人公…

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鹿島新当流の秘伝

 木下昌輝の「剣、花に殉ず」を読了した。著者は歴史・時代小説作家で、「宇喜多の捨て嫁」で第92回オール讀物新人賞を受賞して作家デビューしている。本書は、鹿島新当流を学びながらも、自分独自の剣を求める雲林院弥四郎の姿を描いた時代小説である。  雲林院松軒は、鹿島新当流の開祖の塚原卜伝から一の太刀の奥義を伝授されている。その息子の雲林院弥四郎は父親の下で新当流を修業しているが、一の太刀の秘伝を受ける…

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時代小説「吉原裏同心」一人二役

 吉原会所に新しい頭取が就任 遊廓吉原の大改革がスタートするも、早くも暗雲が!?  長く廓の用心棒であった神守幹次郎が吉原を率いる八代目頭取四郎兵衛に就任、御免色里の大改革が始まった  会所を救う驚くべき「金策」に始まり、大胆な改革を行う新頭取への嫌がらせや邪魔が続く中、切見世を何軒も手中に収めた「豊游楼」の主夫妻が無残にも殺される     ところが、そんな幹次郎が正体不明…

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2023年:今年読んだ歴史小説・時代小説

 今年読んだ歴史小説および時代小説を、梗概を日記にアップした時系列順にまとめて、自分用にインデックスを作成しました。  なお、作品の読了日と日記にアップした日には、三か月位のタイムラグがある場合があるので、厳密に言うと、一部は今年読んだものではありません。 1.ええじゃないか:谷津矢車   https://smcb.jp/diaries/8965333 2.よって件のごとし-三島屋変…

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隆慶一郎「死ぬことと見つけたり 上」

 冒頭は異様な雰囲気で始まる。主人公がいきなり虎と戦って死ぬのである。といっても、これは今で言えばイメージ・トレーニングに当たる。真の葉隠武士は毎朝死ぬイメージ・トレーニングを行う。藩に仕えると色々としがらみができてしまうので、敢えて仕えず浪人として暮らす。だが、一度戦となれば、藩主のために命を投げ出すことに何のためらいもない。葉隠武士は死人として生きるのである。かと言って、命を粗末にすることも…

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おちか母となる

 宮部みゆきの「青瓜不動-三島屋変調百物語九之続-」を読了した。著者は直木賞作家で、ミステリー、時代劇、ファンタジー等、レパートリーの広い作家である。本書は三島屋変調百物語シリーズの第九作目の中短編集であり、著者お得意の江戸怪異譚である。なお、本書では、三島屋の黒白の間における先代の聞き手のおちかは、待望の出産を遂げている。   「序」:本書では聞き手の富次郎の兄で、三島屋の跡取りの伊一郎が修…

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化け者暴きの幕が開く

 蝉谷めぐ実の「化け者手本」を読了した。著者はミステリー、時代小説作家であり、「化け者心中」で第11回小説野性時代新人賞を受賞し、作家デビューしている。本書は「化け者心中」の続編であり、元名女形の魚之助と鳥屋の藤九郎のバディが、芝居小屋で起こった怪異に再び挑む姿を描いた時代ミステリーである。  日本橋は通油町で百千鳥という鳥屋を営む藤九郎が、鳥好きな客の曲亭馬琴と店でいすかの嘴の話をしていると…

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仇討ちかあだ討ちか

 永井紗耶子の「木挽町のあだ討ち」を読了した。著者は時代小説作家で、2010年に「絡繰り心中」で第11回小学館文庫小説賞を受賞して作家デビューし、2023年に本書で第169回直木三十五賞と第36回山本周五郎賞を受賞している。本書は、謎の若武者が関係者にインタビューすることにより、二年前に木挽町の芝居小屋の前で起こったあだ討ちの真相を明らかにするという形式を取っている。  第一章「芝居茶屋の場」…

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蝦夷地の守護神

 高橋克彦の「噴怨鬼」を読了した。著者は直木賞作家で、推理小説を始め伝奇小説、時代小説等を手広く手掛けている。本書は「鬼」シリーズの最新作であり、史上最強の鬼である噴炎鬼の正体を暴くために、仲間達と陸奥国に向かった陰陽師陰陽師弓削是雄の活躍を描いた伝奇小説である。  物語は仁和四年(888年)の暮の深夜に、検非違使庁別当(長官)小野春風が陰陽寮頭の弓削是雄の役宅を訪れる場面から始まる。是雄は安…

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花の色は

 高樹のぶ子の「百夜-小説小野小町-」を読了した。著者は芥川賞作家であるが、ミステリーなど、幅広い分野の作品を手掛けている。本書は、平安時代前期の歌人で六歌仙の一人で、世界三大美女の一人に挙げられている小野小町の生涯を小説化した作品である。  小野小町は生没年を初めとし、その生涯のほとんどは不明である。彼女は一般には参議小野篁の孫と言われているが、篁の娘であるとの説もあり、本書では篁の娘説の立…

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壬生義士伝 浅田次郎原作

 DVDで「壬生義士伝」全3巻を観た。壬生義士伝は浅田次郎の新撰組三部作の一作目である。主人公は南部藩脱藩浪士の吉村貫一郎。二作目は「輪違屋糸里」で 主人公は芹沢 鴨。三作目が「一刀斎夢録」で主人公は斎藤 一 である。  なお、新撰組には現 岩手県出身の吉村貫一郎という隊員がいましたが、さほどの特徴はない普通の隊員だったようです。  三部作はどれも、涙なくしては読めない名作です。 …

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日本一富んだ村

 青山文平の「本売る日々」を読了した。著者は時代小説作家であり、2011年、著者が53歳の時に「白樫の樹の下で」で第18回松本清張賞を受賞して再デビューし、史上二番目の67歳で2016年第154回直木賞を受賞している。本書は、城下町で開業する傍ら、月に一度、在所を行商して歩く本屋を主人公とした時代小説の連作中編集である。  物語の舞台は文政年間で、主人公の松月堂平助は本屋であるが、彼が扱ってい…

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光る山

 千早茜の「しろがねの葉」を読了した。著者は直木賞作家で、2008年に「魚」で第21回小説すばる新人賞を受賞し、同作を改題した「魚神」で作家デビューしている。本書は2023年第168回直木三十五賞受賞作で、安土桃山時代末期から江戸時代初期にかけて、石見銀山で生き抜いた一人の女性の生涯を描いた時代小説である。  本書の物語は、豊臣秀吉の朝鮮征伐が行われる時代に始まる。本書の主人公のウメは子供の頃…

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天下の名刀

 青山文平の「白樫の樹の下で」を読了した。著者は時代小説作家であり、2011年、著者が53歳の時に「白樫の樹の下で」で第18回松本清張賞を受賞して再デビューし、史上二番目の67歳で2016年第154回直木賞を受賞している。本書は松本清張賞受賞作で、江戸を騒がす辻斬り事件に巻き込まれた貧乏御家人の姿を描いた時代ミステリーである。  物語の舞台は田沼意次が失脚し、松平定信が老中首座に登った寛政時代…

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私の時代小説遍歴は鬼平犯科帳から始まった。

面白さにハマって結局全巻揃えてしまった時代小説 鬼平の奥様の健気さから始まった。 鬼平犯科帳は、池波正太郎による時代小説で、江戸時代の庶民生活や犯罪を描いた作品です。この作品の面白さは、以下のような点にあります。 独特の世界観:鬼平犯科帳の舞台は江戸時代の下町であり、庶民の暮らしぶりや風俗、犯罪の常識や掟などが緻密に描かれています。作者の池波正太郎が独自に創り上げた独特の世界観…

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士族としての誇りを胸に秘め

 坂上泉の「へぼ侍」を読了した。著者は東京大学文学部日本史学研究室で近代史を専攻し、西南戦争を描いた本書で2019年第26回松本清張賞および第9回日本歴史時代作家協会賞新人賞を受賞して作家デビューしている。本書は、明治維新により没落した武士の息子が、士族として名誉を取り戻すために志願兵として西南戦争に参戦する姿を描いた時代小説である。  物語の舞台は西南戦争が勃発した明治十年である。主人公で十…