「時代小説の蔵」の日記一覧

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澤田瞳子 の 「のち更に咲く」

★3.3 軽いノリのミステリー。 時代は道長の長女・彰子が長子出産の前後。主人公は道長の土御門第で働く下﨟女房の小紅。小紅の祖父は民部卿、参議を務めた家柄だが、父や兄が罪人となったため、肩身の狭い生活。 京を荒す盗賊が出没し、兄・保輔の復活が噂された。保輔は盗賊の首領として命を落としたと聞いている。小紅は土御門第に押し入った賊に捕まり、連れていかれたのは賊一味の塒。盗賊・袴垂を率いるのは空蝉と…

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青山文平 の 「父がしたこと」

★3.5 老中を出せる譜代藩に於いて、筆頭家臣の家に生まれた親子と藩主の蘭方手術を交えて、華岡青洲以後の日本の麻酔手術の歩みを描く。 父の永井元重は小納戸頭取を務め子の重彰は目付の職にある。藩内には庶民に人気の蘭方医・向坂清庵(さきさかせいあん)が尚理堂という診療所を開いている。だが、藩内の文化を先取りする名主らにはまだ蛮医と見下されていた。 文化元年(1804年)華岡青洲が麻沸湯(まふ…

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永井紗耶子 の 「きらん風月」

★3.3 戯作者・栗杖亭鬼卵(りつじょうてい きらん、1744年 - 1823年)の生涯。 河内国の佐太に生まれた伊奈文吾(後の栗杖亭鬼卵・りつじょうていきらん)は陣屋の手代を務める17歳。父親の勧めで大坂北堀江の狂歌師・栗柯亭木端(りっかていぼくたん)に弟子入りした。元僧侶の木端は狂歌師として機内のみならず、出羽や豊前、豊後なども含め70人もの弟子を持つ一門であるが、文人墨客の集まるところ。…

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馳 星周 の 北辰の門

★3.3 恵美押勝(えみのおしかつ)の乱を起こし滅んだ藤原仲麻呂の半生。北辰(ほくしん)とは北極星のこと、天子の星である。 藤原不比等の子として国政を牛耳ることになった藤原四兄弟。だが、疫病で皆が命を落とすと、その座についたのは光明皇后の異父兄・橘諸兄(たちばなのもろえ)であり、藤原四兄弟の子たちはまだ力がなかった。 仲麻呂は光明皇后の信任を得て昇進し、光明皇后のために設けられた紫微中台の令…

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永井紗耶子 の 「絡繰り心中」

★3.3 作者のデビュー作品。 遠山金四郎は早朝の吉原田んぼで花魁の斬殺死体を見つけた。父の盟友である太田南畝に事件を調べろといわれる。金四郎は実家を飛び出し、木挽町の森田座で笛方の見習いの身、相方は浮世絵師の歌川国貞である。 殺されたのは雛菊という花魁で、武家のの娘からある日突然に売られた身。どうやら足抜けした雛菊が心中を図った形跡がある。相手は誰だったのか、殺したのは誰か。事件を解くカギは…

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中島久枝 の「ひとひらの夢 日本橋牡丹堂 菓子ばなし(十二)」

★3.3 シリーズ12作目。 「鹿の子」職人に父親となって欲しいと願う紺屋の10歳の娘からの依頼の菓子。紺屋の女主と使用人である職人との微妙な関係も。 「黒茶」清国の3種の茶を使った茶会は札差の根岸の別邸で開かれる。あの春霞からの依頼の菓子。山野辺藩の新任留守居役の披露目の日と重なって。 「かりんとう」学者の女房と娘が煙草をやめられない主のために依頼する菓子。「吉原芸者」越後の百姓の出の娘が…

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藤井邦夫 の 流人船 新・秋山久蔵御用控(十八)

★3.3 新シリーズ18作目。 「由松命」はしゃぼん玉売りの由松の幼い頃が絡む物語。 茅町の料理屋・若柳の通いの仲居・おすみが帰路に襲われ殺された。おすみの左の二の腕には由松命という古い刺青があった。だが、仏の顔を拝んだ由松には心当たりはない。おすみの過去を調べていくうちに、深川仲町の岡場所・松葉屋にいたことが分かった。子供の頃に女郎屋に年季奉公に出されこき使われた後、女郎にされて生きてきた女…

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安部龍太郎 の 薩摩燃ゆ

★3.3 50石取の側用人から財政改革主任に抜擢された調所笑左衛門の生涯。植松三十里の「富山売薬薩摩組」の関連でこの本を読むことになった。 文政11年(1828年)薩摩藩主・島津斉興の側用人である53歳の調所笑左衛門広郷は藩の財政改革主任に抜擢された。 重豪が文化10年(1813年)に薩摩藩の負債は120万両を、一方的に更始(こうし、債務放棄)を行うと宣言した。娘・茂姫を近衛家の養女として…

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永井路子 の 望みしは何ぞ―王朝・優雅なる野望

藤原道長の高松系(明子)の3男である能信(995-1065よしのぶ、最終権大納言)を通じ、道長政権下における鷹司系(倫子)との確執と、道長亡きあとの院政へ傾斜していく流れを描く。 どうしても正室である倫子の子たちは男は頼通、教通と出世は早く、女はみな妃として入内していく。それに対し高松系の男は長兄は出家し、他も出世が遅く、妃となった女もいない。これは明子の父・源高明が藤原氏の策謀にあって…

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荒俣 宏 の「福翁夢中伝」

★3.3 上巻を読み終えて、この旧題に余話と付いていたことに気付いた。やはり周辺のこぼれ話だったのだ。 色々と福沢諭吉の考え方、成長過程などについて期待して手にした小説だけに、さっぱりだったのは残念。 ・江戸に出るまでの福沢家の経済状態はどうだったのか。 ・咸臨丸で最初に渡米したとき、何を期待していたのか、何を得たのか。 ・手当たり次第に洋書を翻訳していった、それが目的だったかのよう…

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藤井邦夫 の 守り神-新・知らぬが半兵衛手控帖(20)

★3.3   新シリーズ20作目。 「首十両」はこのところ毎回登場する〈隙間風の五郎八〉の危機。 廻り髪結の房吉から「五郎八の首は10両、居場所は5両」という裏渡世へ触れが回っていると聞いた半兵衛は、何とか助けてやろうとする。当然ながら、鳥越明神裏の小さな塒には帰っていない。 東浅草聖天町の聖天一家の政五郎から出所は薬研堀の百蔵という両国広小路の地回りだと知る。この百蔵が三味線堀の…

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梶よう子 の 「商い同心 人情そろばん御用帖」

★3.3 時代は天保の改革に失敗し失脚した水野忠邦の後の時代。前作から丁度10年にしてシリーズ2作目。物語は前作から3年経過している。 北町奉行所の諸色調掛同心の澤本神人(じんにん)は諸色掛名主でもある横山町の町名主・丸屋勘兵衛を懇意にしている。諸色調掛は市中の品物の値が適正かどうか監察し、禁じられた出版物が版行されていないか目を配る仕事である。 神人は30半ばで未だ嫁取もできず…

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赤神 諒 の 誾(ぎん)

★3.3 大友シリーズ第7弾。立花誾千代と宗茂の物語。「誾」は立花宗茂が誾千代を呼ぶときの名。物語は誾千代8歳(宗茂は2歳年上)から死する34歳まで。 大宰府の岩屋城・宝満山城と立花城との関係から、2人は友として育つ。だが、宗茂を婿として迎えることになってからは一変する。誾千代は女の身体をもった男として最後まで描いていく。作者は夫婦不仲説をこう解釈したようだがどうもしっくり来ない。誾千代の…

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松本清張 の 「火の縄」

紹介には「鉄砲にかけては百発百中の名手・稲富治介(いなどめじすけ)は風采のあがらない無骨者のため細川忠興、ガラシア夫妻にうとまれ出陣の機会も与えられず不遇の一生を終えた」とあるが、物語の大半は藤孝、忠興、ガラシア3人の生きざまを描いている。特に忠興とガラシアのややこしい夫婦関係が主体。 物語は信長が丹波を光秀、丹後を忠興に与えたところから始まる。丹後を制圧したとはいえ、弓木城には古豪の一色…

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安部貞隆の「豊後安倍氏の伝承」に見る奥州安倍氏の末裔。

『福岡県や大分県には「アベ」姓を名乗る者が多く、特に大分県では特筆されるほど多い。大分県では「阿部」「安倍」「安部」「安陪」「安邊」「安辺」「案部」と表記するアベ氏及びアンベ氏があり、その中では安部が最も多く、次に阿部、安倍の順である。安部は全国的に見ても圧倒的に多く、全国の15%が大分県に集中している。その中でも旧大分郡だけで全国の8% と密集している。多くの古文書では1つの家系であっても時代…

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高橋克彦 の 「炎立つ 伍 光彩楽土」

★3.3 最終の5巻目。3代秀衡の晩年から4代泰衡の奥州敗戦まで。物語は2代基衡を飛ばして3代秀衡52歳から始まる。 承安2年(1172年)4代泰衡は18歳。泰衡は次男ながら母が前の陸奥守・藤原基成の娘であり後継者となった。その基成も今は平泉に住む。長男の国衡は母が物部の末裔としている。秀衡の支配地は奥六郡の他、出羽、津軽、磐城を含み、2年前には平清盛の推薦で鎮守府将軍に任じられている。…

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澤田瞳子 の 「月ぞ流るる」

★3.4 NHK大河「光る君へ」では赤染衛門はいつ登場するのか。三条(居貞)天皇の時代(1011~1016年)の朝廷と平安貴族の姿を「栄花物語」の作者である朝児(赤染衛門)の視点で描く。特に宮廷内の娍子皇后の勢力図と三条天皇と藤原道長の確執を描くために、三条天皇の東宮時代の妃・藤原原子(定子の妹)の死因にまつわる謎解きを主軸としている。時代は「枕草子」が出て16年、「源氏物語」はその数年後に当た…

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坂井希久子 の「つばき餡 花暦 居酒屋ぜんや」

★3.3 新シリーズ5作目。今回の大きな事件は、只次郎の姪・お栄が15歳で大奥をお暇になったこと。将軍の伽を断ったことで、病として暇を出されたことにされたのである。仲御徒町の実家の父親(只次郎の兄)・林重正はすぐにも嫁に出そうとする。逃げ出したお栄はぜんやに転がり込んで、隣の春告堂の2階でお花と寝泊まりするようになった。只次郎に似た町人気質のお栄の活躍も期待できる。 升川屋の離れに引き取…

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高橋克彦 の 「炎立つ 四 冥き稲妻」

治暦3年(1067年)、結有は清丸を伴い清原武貞(武則の嫡子)の妻となっており、家貞(後の家衡)も生まれ衣川に住んでいる。前九年の後、源頼義は陸奥守を解任され伊予守となって島流し(伊予⇒筑紫宗像)の宗任らの監視役ともなっている。(あべ姓は福岡県、大分県に多いがいろんな伝承もありそう)。 16年後の英保3年(1083年)、62歳の清原貞衡(武貞)は胆沢の館で突然発熱し没した(本書では…

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高橋克彦 の 「炎立つ 参 空への炎」

★3.5 黄海の戦いの後から前九年の戦さまでを描く(後冷泉天皇の時代、後朱雀天皇の第一皇子。母は藤原道長の女の藤原嬉子、紫式部の娘大弐三位が乳母)。 頼義敗戦は兵と兵糧の不足と出羽守の源兼長の非協力にあると内裏に報告、抗議した。内裏は頼義の鎮守府将軍と陸奥守の留任を認め、出羽守に縁者の源斎頼を送った。だが援軍派遣はしなかった。多賀城や伊治城の兵2千程度では何もできず康平5年(1062年)を…