「私小説」の日記一覧

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私小説 と 水上勉の「凍てる庭」

 「凍てる庭」は水上勉が新聞連載小説として執筆し、自身の戦後を描いた自伝的小説である。水上勉(みなかみ つとむ)は本名で、ペンネームは途中から「みずかみ つとむ」と名乗ることにした。  水上は本当に苦労の多かった作家で、若狭の僻村の大工の家に生まれたが、幼時は貧困で勉学の機会は無かった。ただ、とても賢いと評判になり選ばれて寺に入らされ、旧制花園中学卒業まで学ばされた。ただ、寺の修行はあまり…

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彼女の官能的な香り

言葉による芸術、文学は、人間の「知」に直接語りかける。その文学は、19世紀末に始まった文学運動である自然主義が、重要な起点になっているといえる。なぜなら、現代の文学作品はほぼ自然主義の考え方を踏襲しているからだ。 エミール・ゾラにより定義された学説の下、19世紀末、フランスを中心に起こった文学運動である自然主義は、自然科学を下に、「真実」を描くために、あらゆる美化を否定する考え方なのだ。 ゾラの…

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小説を書いて困る事

小説って、私小説は自分の事を書いていくんだけれど、私の場合は赤毛のアンのように想像たくましくして妄想を書き綴っていく。 お勤めの頃、テレックスも打っていたがローマ字入力でブラインドタッチだった。パソコンのキー配列が一緒なので、思った事を即座に文章にする事ができる。 これが原稿用紙に書いていく作業なら、多分小説は書いていなかったと思う。 カルチャーセンターの小説実作教室に通っていた時、母子心…

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メトロポリスのうめき

 あれから四半世紀を経て思いだす。  その後、こんな私小説も書いたっけ…  バブルは崩壊し、景気の底が見えないところへ阪神淡路大震災が起きた。これが景気回復の起爆剤になるなんて、不謹慎なことを言う輩もいた。 そんな思惑とは裏腹に、世の中は不安な空気で満ちていたような気がする。  その日もいつものように、私は地下鉄千代田線の国会議事堂前に向う電車に乗っていた。  私の勤めるJEPS…

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初めての帯び書き!

そこで「帯び書き」的意味合いから一筆啓上申し上げます! 我同志村尾国士君のことを良くご存知でない方も居られると思いますが、柔道部であった彼とは3年8組のクラスメートで篭球部のA・野球馬鹿4人組らと、運動一筋で高校生活最後の一年間を共に過ごしました。 厳つい体躯容貌に似合わず当時から文才に秀でた彼は同人誌に数多く寄稿、高校生らしからぬ文体で我々の度肝を抜く存在でありました。 その後暫くお互…

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小説 フリードリンクカフェ 第49話 最終回 祭のあと 

 イベントは、ホールの中にある宴会場で講演者を交えた立食パーティーに入っていた。  立食パーティーの方は任意参加なので、参加人数を少なめに見積もってケータリングサービスを依頼していた。  ところが実際は8割がたが参加し、宴会も大盛況になった。  おかげで、多少の持ち出しを覚悟していたこのイベントは、そこそこの黒字を出した。  ホッとして談笑している発起人の大塚に、足りなくなったときの為…

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小説 フリードリンクカフェ 第48話 本当の英雄

 山田の心配をよそに、開場時間前に既に入り口には行列ができはじめていた。  経理と受付の責任者になっていた山田は、事前申込事前支払い、事前申込当日支払い、当日申込と、3つの受付を用意していた。  迷いながら問い合わせてきた当日申込者に対応したのがきっかけで、開場時間をフライング気味に受付が始まってしまった。  受付はてんやわんやになった。  悲観的な山田の予想に反して、当日組みが圧倒的…

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 小説 フリードリンクカフェ 第47話 イベント前夜

 来週末には東京を離れると大塚が言った。この時点で、最低ラインの三分の  一しか集客できていなかった。  「仙台からでも一日に一回は携帯で連絡を入れますから、状況を確認しあいましょう。既に協会のイベントでチラシも相当撒きましたから、そろそろ反応ありますよ」  不安そうな山田を励ますように、大塚が言った。  この日、最終打ち合わせのために、イベントのメインゲストとして講演を依頼した著…

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小説 フリードリンクカフェ 第46話 瞬時の人事

 T支部の例会の二次会は講師役を交えての懇親会だが、この日、大塚とオリーブ、山田の3人は1ヵ月後に迫ったイベントの打ち合わせのため、他のメンバーとは別に席につくようにした。  「その前に新支部長決めちゃいましょう。田代君!ちょっと・・・」  オーガニックが売りの小さな喫茶店は貸切状態だった。談笑していたボックス席から、困ったような顔をした田代がやってきた。  「カンベンしてください…

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小説 フリードリンクカフェ 第45話 プレゼント

 山田は、コミュニティーサイトのメール機能を使って、オリーブにサプライズ企画について相談のメールを送った。  すると彼女も賛成して、秘密裏に賛同者を募る方は引き受けると言ってくれたので山田も安心した。  一人500円も集めれば、そこそこのプレゼントを贈れる。  例会の日、オリーブが記念品を、麗子が花束、山田が色紙をそれぞれ担当し、大塚に分らないように隠して持参した。  その日も、大…

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小説 フリードリンクカフェ 第44話 サプライズ企画

 「大塚さんにはお世話になったから、あたし何かプレゼントしようと思うんだ」  麗子がぼそっと言った。  「それは良い考えかもしれない・・・」  「どうしたの?」  「・・・今度の例会でサプライズ企画やろうか。大塚さんにとっては最後の例会だもんね」  「サプライズって?」  「プレゼントだよ。有志を募って記念品と花束を贈呈するんだ。もちろん本人には極秘で進める」  「…

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小説 フリードリンクカフェ 第43話 後任人事

 日本活字協会T支部の例会で、いつも受付をしている山田と同年輩にみえる女性がいる。  オリーブのハンドルネームで親しまれ、参加者のほとんどがそのように呼んでいた。  この例会の告知は、大手SNS(ソーシャルネットワーキングサイト)の中に、彼女が立ち上げたコミュニティーで行っているからだ。  オリーブは、ヒーリングやチャネリングを駆使するスピリチュアル系カウンセラーに師事し、自らもカウンセ…

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小説 フリードリンクカフェ 第42話 ミーティング

 山田は、もしかしたらとんでもない企画に足を突っ込んでしまったのではないか?と、不安になった。ちょっと手伝うぐらいのつもりが、ナンバー2の主要なスタッフにさせれられそうな状況だからだ。  不安そうな顔をしていると大塚が言った。  「ダイジョブダイジョブ、何とかなりますよ。去年もちょっとしたイベントをやったんですけど。ぜんぶ初めてのことなのに、周りが助けてくれて何とかなりましたもん」 …

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小説 フリードリンクカフェ 第41話 二人だけ

 インキュベータ会議に参加するようになって間もなく、山田は活字協会の会員になっていた。一向に勧誘してこないので、自分から入会方法を尋ねてみたのだ。  年会費が3000円と非常に安いこともあって、すぐに手続きすると、毎月会報が送られてくるようになった。それ以外の特典は、協会主催のイベント参加が会員価格になるということぐらいだから、メリットがあるというほどのこともないが、山田は好奇心から会員にな…

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小説 フリードリンクカフェ 第40話 ただの友達

 そもそも、何か答えが欲しいわけではないのだ。  話を聞いて欲しいのであって、言いたいことを言ってしまえばスッキリする。恐らくそんなところだろう。  麗子にとって自分は、いつでも話を聞いてくれる都合のいい存在なのだ。山田にはそうとしか思えなかった。  それなら、自分にとって麗子はどんな存在だというのだろう?山田は自問自答してみた。  彼は思った。麗子から頻繁に連絡が来るものだから、もし…

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小説 フリードリンクカフェ 第39話 おんなごころ

 製薬会社時代の友人が九州へ転勤が決ったと、麗子が夜、山田に電話をかけてきた。  彼女に自己啓発系の本を紹介し、その手の本に目覚めさせたのは彼だった。  派遣の契約期間が終わり彼女が別の会社に移ってからも、ときどき連絡をとりあい、eラーニングのMLMに誘われたりもした。  eラーニングもそうだが、彼は企画立案セミナーの講師もしていた。麗子は頼まれて受付を手伝ったことがある。  麗子に誘…

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小説 フリードリンクカフェ 第38話 麗子と日本活字協会

 山田は各月で開催されるインキュベータ会議に、毎回参加するようになった。  彼としては面白いイベントだったが、参加者はまばらで、何でもっと宣伝しないのだろうと、いつも思っていた。  バックに有名な書店チェーンのオーナーが会長を務めるNPO法人があるのにも関わらず、公式メルマガですら宣伝していなかった。  2度目に山田が参加したとき、そのNPO法人、日本活字協会の会長が来ていた。山田は突然…

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小説 フリードリンクカフェ 第37話 インキュベータ会議

 千原は、インキュベータ会議の参加者に配るプリントを用意していた。  それはB4サイズに横書きで、人の一生を12分割した、木原千春の絵を中心に置いたものだった。  赤ん坊のハイハイから始まって、杖をついた老人まで、人の姿のシルエットをアーチ状に並べてある。  その一つひとつに、空白の“ふきだし”がついていた。  片隅に小さな字で、『生きるって わたしが わたしという物語を つくっていく…

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小説 フリードリンクカフェ 第36話 イベント会場

 京浜東北線の大井町は、ロータリーの上の歩道橋を広くして、ちょっとした広場になっている。  その広場で、日曜日の夕方セミプロのロックバンドが最大出力の小型アンプから割れた音を出して、路上パフォーマンスをやっていた。  インキュベータ会議は、品川区のコミュニティー施設で行われる。  その施設は、改札のコンコースにつながったこの広場をつたって、直接は入ることのできるデパートが入っているビルの…