不思議バラ物語 ~風~

いつ見ても、荒れた庭だけど、五月の今どき、きれいで可憐なミニバラが、フェンス越しに咲き乱れている。
一年に一回逢いに来る恋人みたいな、なぜか、そんな感じで、花は、より紅く、話しかけているような風情である。
だれが住んでいるのか、それとも、住んでいないのか、まるでわからないけど、風に揺れる花は、夢見心地なのだ。
あっ、ドアが開いた!
こちらを見つめる瞳が、少しだけ青かったみたいな。
すぐに、閉まったドアに、風の音は、吸い込まれてしまった昼下がりの出来事だった。

カテゴリ:アート・文化