「即興話」の日記一覧

会員以外にも公開

不思議バラ物語 ~夢~

この季節、あちこちの庭から、いい香りがしてくる。 バラである。なぜかこのあたり、バラが咲いている家が多いのだ。その中で、小さい庭なのだが、いろんな色のバラが咲き誇ってる、かわいい感じの家が、目立っている。 真っ赤なバラに、淡いピンク、清楚な白、情熱的なオレンジ、見ているだけで、幸せな気分になる。 でも、青いバラは、やはり、見えない。 いつか、この庭にも、青いバラが咲く、そんな夢を見ている人が、た…

会員以外にも公開

不思議バラ物語 ~恋~

今もあるけれど、すぐ近くの丘の上に、『白バラ屋敷』と呼ばれる小さな洋館がある。そして、その庭には、名前の通り、白いバラが咲き乱れているのである。 でも、その家には、今は、もうだれも住んでいない。 白いバラだけが、静かに咲いている。 美しい女の子が、いたような気がするが、その子も、どこへ消えたか、誰も知らない。  素敵な恋に出逢って、追いかけて行ったと、風の噂では、聞いたような。 幸せだったらと、…

会員以外にも公開

不思議バラ物語 ~風~

いつ見ても、荒れた庭だけど、五月の今どき、きれいで可憐なミニバラが、フェンス越しに咲き乱れている。 一年に一回逢いに来る恋人みたいな、なぜか、そんな感じで、花は、より紅く、話しかけているような風情である。 だれが住んでいるのか、それとも、住んでいないのか、まるでわからないけど、風に揺れる花は、夢見心地なのだ。 あっ、ドアが開いた! こちらを見つめる瞳が、少しだけ青かったみたいな。 すぐに、閉まっ…

会員以外にも公開

哀愁チョコレート

『苦いねえ』 『そう、それほどじゃないと思うけど』 『いや、かなり、苦い』 『忘れてたわけじゃないんだけど』 『嘘つけ』 『うん、嘘ついてた』 『そう、あっさり言われてもなあ』 『14日誕生日の子がいてさ、朝まで飲んでた』 『じゃあ、これは、哀愁チョコレートってことにしておく』 『何、それ、でも、まあ、いいってことだよね』 ちゃっかり彼女にあっては、まじめ彼も、形無しって感じかな。

会員以外にも公開

『今年も』

やっぱり、あった。 あの角のいつもは、空き店舗なのに、今日、一月四日の午後五時になると、開いてる不思議な店。そして、翌朝五時になると、閉まってしまう。 今年は、何が出るのか、楽しみにしてる人は、たくさんいるだろう。 ありきたりだけど、俺は、煮物が食べたいなあ。 もちろん、おでんも鍋もいいけどさ。 俺らみたいな、はぐれものが、多分、いっぱい来るはずだ。 今年も、あの店あって、ありがとさん…

会員以外にも公開

クリスマスの次の日

『まあるいケーキ、食べたかった』 『食べりゃいいじゃん』 『そういう問題じゃないんだよ』 『じゃあ、どういう問題?』 『鈍いあんたには、わからない』 『鈍くて、悪かったわね』 『そう怒らなくても』 『怒ってなんかいないよ』 そう、怒ってなんかいないのである。昨日、体調不良で、会社を早退した同僚のために、まあるいケーキを、持ってきてくれた心暖かい、先輩なのである。 口の悪い後輩と…

会員以外にも公開

『ひとり駅』

ここは、どこだろう。そう思えるような場所だ。 最寄りの駅から、何も考えずに乗ってしまった。 そして、思わず降りてしまった。 ホームには、私以外、誰もいない。ちょっと冷たい風が、吹いている。まだ、秋になったばかりなのに。 無人駅の改札を抜けて、駅前に出てみた。 ここにも、誰もいない。 目の前に、不思議な形の小山が見える。かなり、紅葉している。ここの秋は、もっと早くに始まっていたらしい。…

会員以外にも公開

想い出喫茶

たった一日だけの喫茶店。それが、想い出喫茶だ。 今夜、八月十六日の夕方から、深夜二時まで開いている。 場所は、あの橋を渡ってすぐのところだ。 ある人は、知らない人ばかりで、淋しいと言っていた。でも、それもいいじゃないと思う。 知らないからこそ、話せる話もあるんだから。 暗くなって、少しだけ、風に吹かれたら、ちょっと出かけてみようか。あの日、言えなかった言葉が、言えるかもしれない…

会員以外にも公開

わかってるけど

『蒸し暑くて、やりきれないね』 『35度だって』 『暑くて、当たり前』 『まだ、梅雨明けもしてないのに』 『夏の予定は?』 『ない』 『即答だね』 『だって、ほんとだもの』 『俺は、あるよ』 『わあ、いいなあ』 『君も、一緒だよ』 『どういうこと?』 『あれ、忘れちゃったの?』 『何を?』 『8月16日の夕方、あの海岸を散歩するって、一年前に』 『わかってるけど』 …

会員以外にも公開

今夜も

『明日も、降るのかしら』 『さあ、俺には、わからないよ』 『晴れてくれたら、いいけどな』 『何か、予定あるの?』 『別に、ないけど』 『じゃあ、別にいいじゃない』 『そうなんだけど、やっぱりね』 『やっぱり、何だよ』 『晴れたほうが、いい気持ちじゃない』 『それだけ?』 『そう、それだけ』 今夜も、このふたり、とりとめのない話をしている。 ふたりは、いつも、こんな感じ。 …

会員以外にも公開

『まだバレンタイン』

『はい、これ』 『何?』 『チョコ』 『チョコって』 『そう、チョコ』 『何で、今?』 『だから、まだバレンタインだから』 『そりゃ、ないんじゃない』 『いや、私のなかじゃ、あり」 『ありか、なるほどね』 そういえば、昨日は、彼女の給料日。 なるほどね、彼は、苦笑いだ。

会員以外にも公開

『正月気分』

こんな神社あったっけ? もう正月気分も、少しだけ抜けてくる四日である。 いつもの散歩コースだったんだけど、一つ角を間違えてしまったらしい。 今さら戻るのも面倒になって、そのまま進んでいたら、なんと神社があった。 でも、なんか変なのである。 あたりに、誰もいない。つまり、私、ひとりなのだ。 四日だけど、誰かいるのが普通だろう。ちょっと、いや、かなり、不思議気分で、いっぱいだ。 すると、さっ…

会員以外にも公開

『いつかのクリスマス』

『なんか、あった?』 『なんも、ないよ』 『まあ、ケーキは、食べた』 『お酒も、飲んだしね』 『寒いから、外、出なかった』 『あたしも、いつも、おんなじ』 『で、今夜は、これ、恒例のじゃじゃ姫クラブの日』 『うん、これが、一番楽しみかも』 『なんか、淋しい感じもするけど』 『いいじゃない、みんな元気で』 アケミ、ヨーコ、みかの三人は、高校からのながーい友達。そして、クリスマス…

会員以外にも公開

『足音ふたり』

今朝は、あの公園とは、違う公園に来ている。ふたりで座れるベンチが、一つだけの小さな公園だ。 日曜日だというのに、先客がいた。それも、あの小さなベンチにだ。おまけに、ふたりも。 『もう、帰るの?』 『ちょっと、用事があってね』 『まだ、来たばかりじゃない』 『ごめん、また、今度』 『今度って、いつよ』 『う~ん、じゃあ、明日』 『う~んって、何よ』 女の子は、男の子に、背…

会員以外にも公開

『足音ひとつ』

サクサクっと響く枯れ葉の音も、いい感じに思われる。そんなまだ、半分眠いような朝も、たまにはいい。 いつもの公園には、まだ、誰も来ていない。自分ひとりの小劇場だ。 おあつらえ向きに、小さなステージまである。 誰も笑ってくれないが、小芝居をするなら、今かもしれない。 『私、淋しいんです』 『それなら、僕と、踊らないか?』 『でも、私、踊れないんです』 『大丈夫、ほら、こんな風に、僕…

会員以外にも公開

夏ばなし ~だとしても~

誰にも文句は言えないが、どうしてこんなに暑いのだろう。夏だから、それで、終わりかもしれないが。でも、もう、夕方なのに、部屋の中で、30度越えである。エアコンが、古いからかなあ。 私は、泳げないのに、海が好きな女の子を知っていた。そう、知っていただ。名前は、夏樹。多分、夏生まれだろう。 でも、彼女は、私と同じで、泳げなかった。 『なんで、海、好きなの?』 ある日、聞いたことがある。 『泳げないか…

会員以外にも公開

夏ばなし ~やっぱり~

夕方の青空に、雲がない。暑いけど、なんか、いい感じではある。でも、待ってるのは、ギラギラの熱帯夜であるのは、間違いない。 ふと思い出したのは、中三の夏の放課後のある出来事。多分、もうすぐ夏休みだった。高校入試あるから、勉強の夏になるのは、わかっていたけど、夏は、何か、特別な感じがしていた。 『おかしいと思ってたんだよ』 『やっぱり、そういうことか』 『何が、やっぱりなんだよ』 『やっぱりは、や…

会員以外にも公開

夏ばなし ~それなら~

風が吹いても、少しも涼しくない、いつもの昼下がりである。空が青いけど、なんか素敵な夏って感じじゃないんだよね。 もう、今となっては、いいのかもしれない。二十年近くになるんだから。 毎日通って、看板までいた、あの駅裏のスナック。まだあるのは知ってるけど、あれっきり行ってない。 蒸し暑いあの夜、私は、言ったのだ。 『それなら、消えたら』 すべてが嫌になったという、ママに向かって、そう言ったのだ。 …

会員以外にも公開

夏ばなし ~だから~

まだまだ暑い、夕方である。今夜も、ものすごい暑さが待ってると思うと、ため息まで、出てきてしまう。 そんな中、今年も同窓会は、中止らしい。この時期、仕方ないことだけども。 『だから、それでいいじゃない』 そんな口癖の、同級生がいたのを、思い出した。彼女の名は、冴子。浅黒い肌の、夏が似合う女の子だった。高校卒業まで、ずっとおんなじ町内に住んでいたのに、思い出すのは、夏の冴子だった。なぜだか、そのほか…

会員以外にも公開

夏ばなし ~もしかして~

こんなに暑いと、ひやっとしてみたいなんて、思うこともあるような。 でも、やはり、それは、ちょっと怖いかもと、あらためて、思ったりしている、ある昼下がりである。 あの子は、確か、今日子ちゃんていっていた。私の家の近くの神社で、いつも、ひとりで、遊んでいた。涼しい目をした、とても素敵な女の子だった。学校では、まったく見かけたことがないのに、学校から帰って、神社の前を通ると、そこに、いつも今日子ちゃ…