村上春樹「アフターダーク」を読んで「語り手」について考えた その2

村上春樹はみずから「物語を紡ぐ」と言い続けてきた。だが、彼の小説は一人称小説として始まった。
たとえば「むかしむかし、おじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは山に芝刈りに、おばあさんは川に洗濯に行きました。すると大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れてきました。おばあさんはびっくりして・・・」というように、物語は古来三人称で「神の視点」から書かれてきた。

村上春樹の「一人称の物語」は現代に生きる個人主義者として、「共同幻想」でなく「私的幻想」を紡いできたのだ。
「僕」からしか始まらないのだ。「僕」が必要に迫られて深い井戸を掘り、そこではじめて「他者