「金子光晴」の詩  <鐘は鳴る>


 鐘は鳴る    
         金子光晴 詩

金色の美しい空に、
朝の鐘楼から、鐘は響きわたる。
喜を告げる最初の鐘。
空は無限に振盪し、
鐘の響は森を越え、街道の上に彷徨ふ。
春を告げる最初の鐘、

ああ、如何に純真な魂が
お前の金無垢の鐘を大空に呼び醒ましたか。
如何に策術と、弄技を避けて
それは人人の心を高く渡りゆくか。
ああ、早朝の偽無い祈よ。のぼれ!
聡明な空の言葉よ。のぼれ!

今、小村の家家は、幸の窓を開く。
畑土は翼の如く濡れ輝いてゐる。
耕人らは、陽炎ふ丘丘に、
驢馬を叱咤し、燃ゆる車を曳いて、幻の如