この家に越してくる前に住んでいた家には、後ろの庭に添って小道が巡っていた。
垣根に「カクテル」という名の赤い薔薇が咲いていた。
引っ越しが近付いて不動屋さんから、植えられたものは持って行ってくださいと言われた。
薔薇の根を掘り起こして籠に包み位置をずらしていた。
ひとりの女性が通りかかって
「薔薇を。薔薇を、どうなさいました」と垣根の外から言われた。
「近く引っ越すことになりまして」「持って行くことにしましたので動かしています」と答えた。
「行っちゃう」「行っちゃうのね」
「綺麗に咲いてくれて。いつも お話ししてたのね」と薔薇に手を添えて、