「ボヴァリー夫人上」(フローベール著) 伊吹武彦訳
岩波文庫 昭和14年4月17日発行
ーエンマの顔が始終シャルルの眼にうかんできた。
「ではお前、結婚したらどうだ!結婚したら!」その夜、彼は眠れなかった。
どうころんでも損はないのだと考えたシャルルは、機会あらば求婚しようと覚悟をきめた。
百姓は神様にのろわれた仕事と見えて、百姓している人間に百万長者はひとりもない。
エンマは、真夜中に炬火をともして結婚式を挙げたいといった。
そういう訳で、43人の客が寄って16時間も食卓にがんばり、それがあくる日もまた繰り返され、なお2、3日はほとぼりがさめ