105「破局」(遠野遥作)(163回芥川賞受賞作)は厳しき実態描く

「破局」 遠野遥作 「文芸春秋」令和2年9月号所収
令和2年9月1日発行
ー長谷部は女の子です、念のため。
 岩永は高校の部活の先輩で、私が今受けている試験に昨年合格し、今年度から職員として働いていた。
 今の私が灯をきれいだと思い、大切に思っていたところで、明日の私もそう思っているとは、誰にも保証できないだろう。灯の肩が濡れてしまうといけないから、傘自分のを使うべきだと私は言った。
「私、陽介君のこと許せない」
 灯は首の動きだけでわずかにこちらを振り返り、そして笑った。
 警官の後ろに灯が立っていた。仰向けになった私を、灯は黙って見下ろしていた。灯は