曼殊沙華

その赤が血の色にみえるのは
あなたを恋しいせいなのだろうか。

小さな子狐だったころの
寒い手を想う。

食べても食べても
腹がすいたと声高の子供たちを前に
ヒールを履いた女に化けて
町にでたあなた。

体も心も追い詰めて
里に帰ってきた時
血染めのハンカチ

ふいに落ちた。

かわるがわる子が付き添い
野道を白い診療所へ通うとき
そっと澄んだ匂いが伝わって
腕を組むのがうれしくて・・・

本当は
ふさふさしっぽも自慢だし
碧い空を映す銀色の眼も自慢だったけど
そんなことしちゃ
人間のお医者は診てくれないからね。

すいっと頭をとおりゆく赤とんぼに