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「雨が止まない:芍薬」

期待が大き過ぎると失敗する。

一本だけ傾いてしまった芍薬。一番先に咲きそうだったから、私は毎日楽しみにしていた。

開きかけた花弁が萎んでいる。昨夜から雨だった。傘も差さずに庭に出た。人差し指と親指で花弁をこじ開ける。やはり一重だ。

八重は確かに豪華で美しい。が、この一重は故郷新潟に咲いていた芍薬と同じだ。ピンク色の花の中央に黄色い雌しべ。どこか単純で物足りなさを感じる花だった。

スマホで撮った一枚にはピンク色のぼやけた花びらの奥に、クリアーな世界があった。この花でよかったのだ。八重だとこうはいかない。

外側からは見えない花の中で、濃密な生活が営