初 恋 島崎藤村
まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり
わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃を
君が情に酌みしかな
林檎畑の樹の下に
おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ
村下孝蔵
五月雨は緑色
悲しくさせたよ一人の午後は
恋をして 寂しくて
届かぬ想い暖めていた
好きだよと
言えずに初恋は 振り子細工の心
放課後の校庭を走る君がいた
遠