夢のまた夢・・・

新婚間もなく
妻が浴衣を縫ってくれた。
産後母親を亡くして育った私は
古い借家の8畳一間に立ちすくみ
晴れやかな歓びに戸惑った。
きめこまやかな愛に上ずった。

今日、妻は80歳を迎えた。
サンルームで刺繍に熱中している。
腰や膝の痛みも忘れて熱中している。
私は妻の針箱から黙って針糸を借り
自己流で不揃いのボタンを縫い付ける。
男の方が速くて、気が楽なのである。

失った過去は、美しく甦り、懐かしく微睡む。
慣れてしまった現実は、駆け足で流れ去るのみ・・・


新婚の頃は
妻の手料理に目が緩んだ。
夜学を終えて帰