ハンネは 「マドンナ」

              
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土砂降りの雨に洗われた舗道から
一斉に熱気をはらんだかげろうが立ち昇っている。
いっとき稲光と共に真っ黒な雲におおわれた街に
真夏の光が戻り、商店街はいつしか又もとの賑わいを
取り戻していた。

「何だってまた、こんな時に」
彼はひとつ大きく息を吐くと運ばれてきたコーヒーを口元に運んだ。
つい今しがた、この駅前のパーラーへ入いった途端、
出口近くのレジにいた女性客と目が合い、
彼は思わず立ちすくんでしまった。

まさかこんなところで別れた妻に出会うとは・・・
元妻は、鮮やかな水