小銭入れ

ここ数年愛用していた小銭入れ、
ファスナーから引手がこぼれ落ちた。

いささか、想いが籠っていただけに、
何かが、ぷつんと断たれたような気がした。

37歳の夏、
当時、教員の研修は広く認められていて、
私はフライブルク大学の夏期講習に参加した。
哲学ゼミと語学講座に登録し、
当初はゼミ講座に出席していたものの、
次第に人との繋がりが欲しくなり、
関心は語学教室へと移っていった。
そして、
予想に違わず、
教室には参加者の間に、
一方的ではない会話があった。

その教室にcarmen sessaという名の、
イタリア