『殺意』⑦

「しっかり! しっかり!」

そんなことを言って 女の子は 稲田のとなりを 一緒に走
った。

そのときの 小夜子の真剣な顔を ゆくりなくも 稲田は 今
思い出したのであった。

あのとき俺が一着を取ることができたのは小夜子のおかげ
であった。

競争で勝ったことよりも そのあとの伴走者のことの方が
稲田の頭の中に残っていた。

小夜子が 神社の掃除に 遅れ それを教師から咎められて
いたのを 救ったのは 草刈であった。

しかし 草刈にその指示を出したのは稲田であった。

自分のふだんの素行ではとても教師を欺けないと悟って
とっさに草刈を動かした。