英邁豪胆か卑怯臆病か

野口武彦の「慶喜のカリスマ」を読了した。著者は神戸大学名誉教授で、文芸評論家であるが、最近は幕末期に関する著作が多い。本書は、英邁豪胆か卑怯臆病か、世評の分かれる江戸幕府最後の将軍徳川慶喜の一生を俯瞰することにより、幕末から明治維新にかけての動乱の歴史を描いた作品である。
 著者の作品を読むのは、本書で二冊目であるが、何れも著者のかなりの「独断」が盛り込まれており、従来の成書とは異なった見解も多いのだが、なかなかに読み易い作品であった。著者は、本書の冒頭で、慶喜が従来正当な評価を得てこなかったのは、「王政復古史観」と「コミンテルン・ドグマ」という相異なっ