人間の尊厳とは

深水黎一郎の「人間の尊厳と八〇〇メートル」を読了した。著者は、第36回メフィスト賞を受賞してデビューしたミステリー作家であるが、パリ第12大学博士課程研究専門課程(DEA)修了という異色の経歴の持ち主で、「薀蓄」系のミステリーが得意とされている。本書は、著者初の短編集で、表題作は第64回日本推理作家協会賞短編部門受賞作である。
 「人間の尊厳と八〇〇メートル」:何気なしに入ったとあるバーで、見知らぬ男に800m走の競走を挑まれる話。男の説明では、800m走とは無酸素運動で走れる限界の距離であるとのことである。男は、ハイゼンベルグの不確定性原理やサルトルの