「ミステリー」の日記一覧

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巨大な密室

 白川尚史の「ファラオの密室」を読了した。著者は弁理士出身のミステリー作家で、本書で2023年第22回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞して作家デビューしている。本書は紀元前1300年代後半の古代エジプトを舞台とし、一度死んでミイラにされた神官が、先王のミイラ消失の謎に挑む姿を描いたミステリーである。  物語の舞台は1330年代中頃のエジプトで、ファラオのアクエンアテンが亡くなった直後である…

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あの世に金は持って行けない

 ホレス・マッコイの「屍衣にポケットはない」を読了した。著者はアメリカ生まれで新聞記者出身のミステリー作家、映画脚本家で、生没年は1897年-1955年である。本書は1937年に刊行された著者の第二長編で、地方都市で悪を告発する新聞記者の姿が描かれており、著者自身をモデルにした作品と考えられている。なお、本書は本国での初出版時には全く評価されず、第二次大戦後にフランスで出版されて人気を呼んだこと…

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暗黒の連鎖

 岩井圭也の「暗い引力」を読了した。著者は小説家で、2018年「永遠についての証明」で第9回野性時代フロンティア文学賞を受賞して作家デビューしている。本書は、幸せを求めながらも不幸の連鎖に引きずり込まれた人々を描いた、ブラックなミステリーの短編集である。  「海の子」:七十二歳の私は、最近妻の桂子に先立たれたばかりである。私には海太という二十歳の息子がいるが、実は息子は養子であり、私はそのことを…

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未完の名作

 芦辺拓/江戸川乱歩の「乱歩殺人事件-「悪霊」ふたたび-」を読了した。著者の内芦辺拓はいわゆる新本格派のミステリー作家で、ミステリーに対する造詣の深さ、博覧強記で知られるている。本書は江戸川乱歩が昭和八年から九年にかけて、雑誌「新青年」に三回掲載されたまま未完に終わった「悪霊」を、芦辺拓が補遺して完成させた作品である。なお、本書の中で、江戸川乱歩の執筆になる部分は字体を変えて表記されている。  …

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人目につかない男

 マーク・グリーニーの「暗殺者グレイマン」を読了した。著者はアメリカ在住のミステリー作家で、「グレイマン」シリーズや「ジャック・ライアン」シリーズ等の作品で知られている。本書は「グレイマン」シリーズの第一作であり、複数の暗殺者グループに追われるグレイマンことコートランド・ジェントリーの活躍を描いたアクション小説である。  コートランド・ジェントリーは身を隠すのが巧みなことから「グレイマン(人目に…

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火神と呼ばれた男

 逸木裕の「四重奏」を読了した。著者はミステリー作家で、「虹になるのを待て」で2016年第36回横溝正史ミステリ大賞を受賞し、同書を改題した「虹を待つ彼女」で作家デビューしている。本書は、放火事件に巻き込まれて焼死した知人のチェリスト黛由佳の死に不審を感じ、その死の真相を探ろとする友人でチェリストの坂下英紀の姿を描いたミステリーである。なお本書は、坂下が由佳の死の真相を探る現在の部と、彼が彼女と…

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黄道十二宮の星座たち

 法月綸太郎の「犯罪ホロスコープ-本格推理小説Ⅱ-三人の女神の問題-」を読了した。著者はミステリー作家で、いわゆる新本格派の代表的作家である。本書は、黄道十二宮の星座をモティーフとした連作短編集の第二作である。本書は「法月綸太郎」シリーズの作品であるが、ここでいう「法月綸太郎」は著者の法月綸太郎により創作された、推理小説作家で名探偵の「法月綸太郎」という人格である。  「宿命の交わる城で-天秤座…

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湊かなえ著   「望郷」

最近、年金が下がったり税金が上がったり、そんなことどうでもいい。心が豊かになれば。所詮人生は夢舞台、演じて見せようぞ。読んでみて、この手が流行作家の作品なのかと納得。 湊かなえ著   「望郷」 みかんの花 読み出したら、なかなかしんどい短編集、僕には出だしの“みかんの花”は「ああ、なるほど、この作家の人気があるわけが分かった」と思った。駆け落ちした高校生が25年後に帰ってくるストリーならまあ、…

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月が綺麗ですね

 北村薫の「中野のお父さんと五つの謎」を読了した。著者は直木賞作家のミステリー作家で、「日常の謎」と呼ばれるジャンルを得意としているが、詩歌、一般文学への素養も深くエッセイ作家、アンソロジストとしても知られている。本書は、体育会系の出身で文芸誌の編集者である娘の田川美希が巡り合った文学に関わる様々な謎を、中野に住む、定年退職を間近に控えた高校の国語教師である父親が解くという、シリーズ第四作の連作…

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口に押し込まれたレイプドラッグ

 アーナルデュル・インドリダソンの「悪い男」を読了した。著者はアイスランド生まれのミステリー作家である。本書は、エーレンデュル・スヴェインソン・シリーズの邦訳第七作であるが、エーレンデュル主任警部自身は登場せず、彼の部下であるレイキャヴィク警察犯罪捜査官のエリンボルクが主役として活躍する警察小説である。  物語は、電気通信会社技師のルノルフルが、バーで胸にサンフランシスコと書かれたTシャツを着た…

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洛西の竹藪に伝わる伝説

 森見登美彦の「シャーロック・ホームズの凱旋」を読了した。著者はファンタジー作家で、2003年に「太陽の塔」で第15回日本ファンタジーノベル大賞を受賞して作家デビューしている。本書は、舞台をヴィクトリア朝京都としたシャーロック・ホームズ譚の一種のパスティーシュである。  物語の舞台はヴィクトリア朝京都、すなわち、ヴィクトリア女王が統治する日本の首都の京都である。本書でホームズはベーカー街221B…

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偽りのオークションに参加した人々

 大沢在昌の「予幻-ボディガード・キリ-」を読了した。著者は直木賞作家で、「新宿鮫」シリーズ等で著名なハードボイルド作家である。本書は、日本古武術の達人で、凄腕のボディガードであるキリの活躍を描いた「ボディガード・キリ」シリーズの第三作で、亡き父親が書いた機密文書を預けられた女子大生のボディガードを依頼されたキリの活躍を描いたサスペンス小説である。  品川駅港南口近くの古い工場を借りて住んでいる…

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呪われた小説

 恩田陸の「鈍色幻視行」を読了した。著者は直木賞作家で、ファンタジー、ミステリー畑の出身であるが、最近は青春小説や音楽小説、それらのクロスジャンルの作品等、レパートリーが広がっている。本書は初出が2007年10月で、2022年7月までネット媒体や雑誌に連載されたものを単行本化した作品で、呪われた小説「夜果つるところ」の謎を巡るミステリーである。  本書が描くのは、三度映画化が試みられたが、いずれ…

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ミステリー・ゲームの結末

 ホリー・ジャクソンの「受験生は謎解きに向かない」を読了した。著者はイギリス在住のミステリー作家で、2019年に「自由研究には向かない殺人」で作家デビューしている。本書は同作、「優等生は探偵に向かない」「卒業生には向かない真実」のピップ三部作の前日譚であり、友人宅で架空の殺人の犯人当てゲームに興じる、ピップとその友人達の姿を描いたミステリーである。  グラマースクールのASレベルの試験を終えたピ…

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DNAのマッチング

 ハーラン・コーベンの「THE MATCH」を読了した。著者はアメリカ在住のミステリー作家で、エドガー賞ペーパーバック賞、シェイマス賞、アンソニー賞の3賞を受賞した初めての作家として知られている。本書は「森から来た少年」の続編であり、幼い頃に森で発見された主人公が登録したDNA鑑定サイトにより、父親その人および母親の血縁者と思われる二人の人物が発見されたことからトラブルに巻き込まれる姿を描いたサ…

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連続放火事件が発生する順番

 米澤穂信の「秋期限定栗きんとん事件(上、下)」を再読した。著者はミステリー作家で、古典部シリーズや小市民シリーズ等の、いわゆる日常の謎を扱い、青少年を主人公とした爽やか系の青春ミステリーが多いが、実験的な手法を用いた作品も多く、ミステリー自体は本格派である。本書は、小市民シリーズの第三作である。  本書の舞台は前作の「夏期限定トロピカルパフェ事件」の直後の秋からの一年間であり、物語の始まりの時…

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女性限定のライブでの大量殺人

 パスカル・エングマンの「黒い錠剤-スウェーデン国家警察ファイル-」を読了した。著者はスウェーデン在住で記者出身の作家で、2017年に作家デビューしている。本書は「ヴァネッサ・フランク」シリーズの第二作で、インセルによる殺人事件を描いた警察小説である。  本書の主人公は、四十三歳で県警組織犯罪班からスウェーデン国家警察殺人捜査課に異動したばかりの女性警部のヴァネッサ・フランクである。彼女は最近で…

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少し変わったアメリカンドリーム

 コルソン・ホワイトヘッドの「ハーレム・シャッフル」を読了した。著者はアメリカ在住の小説家であり、「地下鉄道」と「ニッケル・ボーイズ」でピュリッツァー賞を二度受賞している。本書は、ハーレムで中古家具店を経営しながら、従弟のために盗品の売買に関わらざるを得なくなったアフリカ系アメリカ人の姿を描いた、一種の犯罪小説である。なお、本書は三章から構成されている。  本書の主人公でアフリカ系アメリカ人のレ…

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古書に憑かれた男

 芦辺拓の「奇譚を売る店」を読了した。著者はいわゆる新本格派のミステリー作家で、ミステリーに対する造詣の深さ、博覧強記で知られる。本書は古書をモティーフとしたホラーの掌編集である。本書では、古書蒐集に憑かれ、古書店を見かけるとその店に入って毎回古書を買ってしまう語り手が迷い込む、現実と虚構のあわいで出会う幻想怪奇が描かれている。  「帝都脳病院入院案内」:「また買ってしまった」との呟きとともに語…