59、ベルリン最後の夜に

私は今回の旅の小さなバッグに、一冊の本を携えていた。
 茂木健一郎著『音楽の捧げもの ルターからバッハへ』PHP新書で、写真ページもたくさんある180頁たらずの、ほんの数十分で読んでしまえそうなボリュームの本。
 脳科学者の茂木先生が2008年の真冬に今回と同じコースを旅され、≪ささやかな日常にひそむ確かな存在、自分にとって大切なものを真摯に見つめること、厳しくあわただしい現代で失ってはいけないもの、人生とともにある音楽の恵みに寄り添い、生きるということに思いを馳せた≫その旅の記録であった。
 コンコルドホテルでベルリン最後の夜、妻が「旅に出ても私に非日