季巡り短歌 秋 「老老敬す」

「老老敬す」

喜寿までの艶やかなりし母の面は 麻酔注射に痛み薄らへど

卒寿なる母の鼓動を支へきて「機械の寿命なほ十八年」

皺々の母の笑顔に会ひてのち動かぬ顔を思へば震ふ

大正とふ遠きところに母生れき 写真婚にて良人を得たり

嬰児(みどりご)を守らむ一途に引揚げの旅を耐えしと母の十八番(おはこ)は

先立てる父と弟わが息子 卒寿の母と生かされ長き

夕風と熱の争ふ終戦日あしたの莟開き切るやら

蝉のうた尊きことば聴く墓前 汗は不動の脊を零れ落つ

ナマンダブ合はす手は汗涼し気に甚平姿の弟笑ふ 

砂粒のすべての程も在る銀河 昼夜を問はず空には光