南の孤島の森の中で

吉田修一の「森は知っている」を読了した。著者は、芥川賞作家であるが、純文学作品のみならず、エンターテインメント系の作品も手掛けている。本書は、産業スパイ鷹野一彦の活躍を描いた国際謀略小説「太陽は動かない」の前日譚で、鷹野が産業スパイになるまでの経緯を描いたものである。
 石垣島の南西にある孤島「南蘭島」で暮らす鷹野一彦とその親友の柳勇次は、青春を謳歌する17歳の極普通の高校生に見えるが、彼らには秘密があった。二人は孤児で、表向きはアジア各地のリゾート、ファッション情報等を扱う弱小通信社で、その実態は産業スパイであるアジアネット(AN)通信に引き取られ、産