私の読む源氏物語 賢木 (さかき)

 賢木 5

 源氏は、藤壺をたいそう恋しく思うのであるが、

「あの夜の情けないほど冷たい心を、そのうちに思いだして反省するように仕向けよう」

 と、逢いたいの気持ちをじっと堪えて過ごすが、そんな気持ちが自分ながら体裁が悪く、退屈でもあるので、秋の野も見たいと出かけたついでに、雲林院に参詣した。

 この院は、もと淳和天皇の離宮であり、仁明天皇の皇子常康親王が戴いて出家して寺院となった。村上天皇の時には勅願によって堂塔が建てられ、重んじられたという寺である。

「亡き母桐壺御息所の兄の律師が籠もっていらっしゃる坊で、法文などを読み、勤行をしよう」