思い残しのない人生(ソバの食べ方)


江戸っ子のソバの食べ方についての小咄を、南新二(1835~1895.戯作者、小説家)が書いている。

「ソバはざるに限る。箸の先につっかけて、さらさらとたぐり、ソバの先に、ほんの一寸か二寸、ツユをつけてつるつるとたぐりこむ。そうしなければ、ソバの香りがわからねえ。ソバは香りを味わうんだ。ツユの中でザブザブかき回して食ったら、ソバが泣くよ」といつも言っていたソバ好きの男が病気になった。明日まではもつまいというので、見舞いに来た友人が、
「何か思い残しか、言い残しはねえか」と訊くと、苦しい息の下から、
「この世の思い出に、たった一度でいいから、ソバにツユを