連載:癌2

「逆の立場」

キミ子婆は食事が終わった途端に部屋に帰りたがる。スタッフは薬を飲ませたり、歯磨きの誘導をしたりと忙しいから、待ってくれるように言うが我慢などできない。

何とか早めに部屋に連れていく。
「ここでは好きなだけ声を出してもいいし、泣いてもいいですよ。」
ついつい冗談のつもりで言ってしまった。

「こんなところで泣けないよ。余計に寂しくなるだけだよ、気持ちをわかってくれる人がいなけりゃ。」



私、泣いたのはいつだったろうと思った。少なくとも今年になってからは一度もない。だが、目の前で人が泣くのは見た。

ある朝、狭い更衣室でA子と一緒になった。久しぶりの気