モルダウのほとりにて

 スメタナの「モルダウ」に魅せられて、25年前夏、ブルタバ川沿いのプラハの町を訪れた。カレル橋を背景にスメタナ像の前に立ち、哀歓をたたえ悠久に眠るブルタバ川のパノラマを写真に収めるとまもなく、ぽつぽつと小雨が降り出した。
 小粒の滴は次第に大きくなり、青空と川面がねずみ色に染まったと思ったら、にわかに雨足が激しくなった。ガイドのパブラが予言したした通り、本当に嵐になったのだ。
 「午後は嵐になりますから、傘を用意してくらさい」
 幾分、舌足らずではあるが、流暢な日本語で呼びかけるパブラの忠告など、だれも信じなかった。東欧の空はまさに日本晴れ。嵐になろうな