新田次郎著「芙蓉の人」は明治の偉大な1女性描く

「芙蓉の人」 新田次郎著 文春文庫
2014年6月10日 新装版発行(1975年5月発行)
ー460ミリメートルで、その水銀晴雨計は機能を失った。
 460ミリメートル以下に至りては、惜しいかな、その正鵠を得る事能わざりし。
「野中到の命に掛けてのお願いだ。里に帰ったら、野中夫婦は元気だったと云ってくれ」(明治28年10月)
 死を覚悟した夫が恵造と熊吉に元気でいたと云ってくれと哀願したそのことが彼女の胸をしめつけたのあった。
 到の顔には決死の色が浮かんでいた。初めっから死を賭けての仕事だから、死ぬべきときにはいさぎよく死ぬべきであり、敗れて退くなどと