村次郎詩集『風の歌』より
序章
風よ おまへは
確に人間だけを吹いてゐる時がある
1
待ってゐた
禪古花(かっこばな)だった
待っていた
閑古鳥だった
西日に顔を赫らめた風(おまへ)だった
2
願ってゐた 移動を
測ってゐた 距離を
装ふた落着が 僕が
夏夜のやうに 草露のやうに
ああ それらの間を 二つの隙を
不意によぎるもの
觸れ さだかならぬもの おまへ
3
おまへは 波をふるはせてゐた
なほのこと僕の心を
青い 弱い草の葉を
僕は坐ってゐた
そこに立ってゐるのは 誰
そこを去ってゆくのは 誰
おまへは丘の風見を狂わ